神社に戻って来た途端、勝一の怒りが爆発した。理由は敵国の兵隊を助けた挙句匿(かくま)った絹代とその兵隊と平気な顔で敵国語を喋る良に対してである。あまりの怒りに勝一の体は震え、今にも2人に飛び掛りそうな剣幕である。一子と絹代はただオロオロするばかり。だが良だけは平然とした顔で勝一の怒りを受け止めていた。 やがて勝一に興奮が少し収まった頃合いを見計らって良が口を開いた。 「勝一。お前の言い分はわかった。確かに小さい頃からアメリカが敵だと教えられてきたお前にはオレや絹代ちゃんの行ないは許せないだろう。だがな、人は肌の色や言葉で憎み合ったらダメなんだ。現にドイツやイタリアは日本の同盟国だろう?アメリカとイギリスだって同じだ。お前は日本の地図とアメリカの地図を見比べたことがあるか?戦争で奪い取った国は除いて元々の日本の領土を考えるんだ。国の面積1つとってみてもアメリカやイギリスに対して日本がしている戦争がいかに無謀なことかわかるだろう。いいか、10日には東京が空襲に遭う。文字通り火の海になるんだ。よく覚えておくんだ。この世で一番大切なのは他人を思いやる気持ちだ。そこから人の命の尊さと慈悲の心が生まれる。決して外国人だからと敵視してはいけない。」 「東京が空襲に?本当なの!」 一子と絹代の2人はその言葉に仰天したようだ。 「ああ。ここは離島だから空襲は受けないかもしれないが、今朝のような単発的な攻撃はこれからも覚悟しておかなければならないよ。」 「ウソだ!お前の言うことなんか誰が信じるもんか!大ばかやろう!!」 しかしそのことで再び怒りがぶり返した勝一は床柱を思い切り蹴飛ばすと泣きながら走り去った。
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