「掛けようか。」 目の前の公園にベンチを見つけると、良は綾子を促し腰かけた。 「・・・・前に鼓島で出合った3人の少年少女の話をしたことがあったろ。一子、絹代、勝一。ゲイルと一緒に来たのがその時の絹代ちゃんだったことはお前も聞いたはずだ。そして、まさかと思ったけど、オレのじいちゃんが勝一だったんだ。」 「えっ。それってどういうこと?意味がわからないわ。」 「だから、鼓島で出会った2人と60年の月日を隔てた今、また出会ったんだ。」 「えっ?そ、そんな。 あり得ないわ。そんな奇蹟みたいなこと。」 「オレだって最初は信じられなかった。時間を遡る事だけでも非現実的なのに、60年も年月があるのに携帯が通じたり。でもじいちゃんが大事に持っていた布袋、お前も見たことがあっただろ。いつかオレがいたずらにあれを持ち出そうとしてものすごく叱られた。あの袋。あの中味がこれだったんだ。」 あれ以来、良は壊れた携帯を肌身離さず持っていた。 「これって・・・良ちゃんの携帯? だけど・・」 「そう。腐ってるんだ。じいちゃんが子供の頃盗んだ。と、オレ宛の手紙に書いてあった。」 そう言いながら良は勝和の手紙を綾子に見せた。 「・・・・良ちゃん。」 予想はしていたものの、やはり読んでいる途中からその目には涙が溢れ出していた。 「オレ、その手紙を読んでじいちゃんの60年という月日の重さを感じた。じいちゃん。いや勝一はずっと悔恨の中で生きてきた。そうと知ってオレの心の中にあった何かが砕けたような気がした。その時お前の存在がオレの中で膨れ上がったんだ。・・・ゲイルが・・奴の会社の日本支社で働かないかって誘ってくれたんだ。オレそこに世話になろうと思う。じいちゃんが死の間際に話してくれたおふくろに託そうとしていた夢を叶えてやりたいんだ。日本とアメリカの架け橋になるっていう夢をさ。そう決めた。・・・だからその夢を叶えるためにはどうしてもお前が必要なんだ。これは理屈じゃない。お前じゃないとダメなんだ。わかったか。これが復活の理由だ。」 「良ちゃん。 本当に私でいいの?」 「何度も言わせるな。」 綾子の涙顔をまともにみることができず、顔を真っ赤にしながら良は先になって駆け出した。そしてつと立ち止まると、真っ青な空を見上げ呟いた。 「一子ちゃん。勝一。これでいいんだよな。いつかまたどこかで巡り会えたなら絹代ちゃんも入れて4人で酒でも飲もうな。」
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