1週間後。東京に戻った良は、病院で再度検査を受けた。その結果が更に1週間後の今日わかるのだ。良は綾子と共に主治医である佐伯の診断を受けるべく病院に赴いた。 「笹崎さん。結果から申しますとですね、70%〜80%の割合で元の状態に戻ったと申し上げて間違いはないと思われます。あの状態からこんなに早く元の状態に戻るなんてとても信じられませんが、ほぼ間違いありません。恐らく奥さんの看病のお陰でしょうね。感謝すべきですよ。笹崎さん。」 それまでの2人の葛藤を知らない佐伯は単純に綾子のお陰だと口にしたが、あえて良は反論しなかった。確かに綾子の存在が良の病を治す要因を作ったことに違いはないのだから。しかし隣に座っている綾子には佐伯の言葉が不満だったようだ。何か言おうとしたが、良が黙ったままなので言葉を無理に飲み込んだように見えた。 その後、これから先の治療方法をアドバイスされ2人は病院を後にした。
「どうした。何か不満でもあるのか?」 帰る道すがら、黙ったままの綾子にそのわけを尋ねると、 「不満もなにも良ちゃんの病気が治ったのは私のお陰じゃないわ。それなのにあの先生ったら私に感謝しろだなんて。ひどいわ!」 やはり佐伯の言葉に怒っていたのだ。 「ひどいもなにもないさ。オレだってそう思ってる。おそらくお前には一生頭が上がらないよ。」 「えっ。一生? あのね!確かに友達ではいるつもりよ。でも一生面倒見るというのは無理な話だわ。未来の良ちゃんの奥さんが聞いたら絶対ただじゃすまないことよ!わかってるの?100%怒るわよ。 そんなこと言うもんじゃないわ・・・」 最後の言葉はひどく淋しげに聞こえた。 「何を言ってるんだか。」 「え?何よ。じゃどういう意味なの?」 「どういうって。お前な、オレ達一緒になるだろう。未来の奥さんてお前のことじゃないのか。それとも別にいるっていうのか?オレには全く心当たりがないけどな。」 「え?何ですって? 良ちゃんこそ変な事言わないよ。」 「お前、オレと一緒になるのがそんなにイヤなのか?」 「え?だって私達は一生友達のままだって・・・え?いつ戻ったの?」 「いつってじいちゃんの初七日の日さ。お前気付いてなかったのか?」 「気付いてって・・・良ちゃん、何も言わなかったじゃない!だから私これからずっと友達のままだって自分に言い聞かせて・・たのに・・・そんなこと言うなんて・・!」 「おま、泣くな!ひとが見てるだろう!泣くなって!」 人目も憚らず泣き出した綾子の手を素早く取り早足で歩き出す良。 「・・・まぁ、今回はオレが悪いかもな。」 「かもですって!もう!絶対良ちゃんが悪いわよ! 泣くなだなんてよくも言えるわね!」 「わかった。わかったから・・・謝るよ。オレが悪かった。この通り。」 急に立ち止まり良は頭を下げた。通りすがりの人がジロジロと2人を見て行く。 “言わぬ後悔より言った後悔だ。先に謝って仲直り”良の脳裏に祖父勝和の言葉ば響いた。 「もうやめて。こんなところで。」 「許してくれるのか。」 「わかりました。許します。だからもう頭を上げて。」 他人の視線を真っ向から受け、恥ずかしさの余り綾子は真っ赤になっている。しかし良はどこふく風といった具合でニヤニヤ笑いながら頭を上げた。 「なら安心だ。お前が本気で怒ると閻魔大王も尻尾を振って逃げて行く位怖いからな。」 「ひどいわ。まるで私が世の中で一番恐ろしい人間みたいな言い方して。」 そこで一旦言葉を切り、改めて綾子は良に向かい合った。 「・・・・良ちゃん。・・・私にだけ教えて。おじいちゃんとの間に何があったのか。それとどうして私とのこと元に戻す気になったのか。」
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