その夜。絹代は綾子と一緒に戻って来たゲイルを交え、改めて良と綾子に戦後の自分を語った。良い事も悪い事も決して口にしたことのなかった絹代だったが、良の目に精気が戻ったのを見てようやく自分の戦後が終わったと実感したからだった。 「まず初めに綾子さんに謝らなければなりませんね。今回私が帰国したことであなたに大変悲しい思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい。ゲイルから指摘されるまで全く気が付かなかったわ。私は今でもアレックスを愛しているから、誤解を招くような行動を取っていたなんて少しも感じなかったの。・・・・そうね・・・あれは60年前。私は実家が神社だったこともあって、小さい頃から巫女をしていたの。ある日、枕元にご神体が現れて不可解なお告げを聞いたの。『近いうちに鼓島にとてつもない大惨事が起こる。助けを呼びなさい。強く念ずれば必ず救世主が現れる。なれどその者の言動を努々(ゆめゆめ)疑うではない。信ずれば必ず助かる。』それだけを言うとすっとご神体は消えてしまった。私はそのお告げに沿ってその日から毎日念じたわ。時にあまり強く念じすぎて気を失った事もあった。けれどその甲斐あってようやく返事が返ってきた。そしてさほど時を置かず良さんが現れたの。私は良さんを見た刹那、この人だ!と六感で感じ、これで助かる!と叫んだわ。ただ1つ、私の予想と違ったのは、救世主となるべくその人が時間を超えて来た未来人だったということね。でも最初に良さんを見つけたのは私の友人の一子ちゃんと彼女の弟、つまり勝一君だった。私達は良さんから戦争終結が近いこと、更に終戦後の日本がどうなるのかを教えてもらいました。私達2人は最初から良さんを救世主だと信じていたから、良さんの口からでた言葉は全て現実に起こることだと確信していました。ところが勝一君は軍国主義の申し子のような子でしたから、真っ向から良さんの言った言葉に反発し、非国民と呼び近付かなくなってしまいました。そのうち勝一君が行方不明になり、姉の一子ちゃんも行方がわからなくなりました。悲しかったけれど当時はそんな感傷にいつまでも囚われていられませんでした。でも私は良さんに全幅の信頼を置いていたから何が起こっても心配することはないと信じていました。あまりにその想いが強すぎて父に咎められたくらいでした。嫁入り前の娘が1人の男に深入りしてはならない。しかも良さんは自分の世界に帰るべき人であり、お前がいくら恋焦がれてもどうにもならない。決して好きになってはいけないと・・・・」 そこで絹代は一息ついた。
|
|