「綾ちゃん!綾ちゃん!どこにいるの!」 苛立った京子の声に3人は玄関の方を見た。家の中から京子がエプロン姿で叫んでいるのが見えた。そして綾子を見つけると一層声を張り上げた。 「何してるの!おじいちゃんのお葬式の準備があるのよ!隣組の人達がそろそろ来る頃だからあんたも手伝いなさい!何をすれば良いかわかってるわね!おばあちゃんの時と同じにすればいいんだから!さぁ!早くして!」 追い立てるように綾子を家の中に入れると、初めて気づいたように絹代とゲイルの存在を認めた。 「あら、お客様にとんだところを見せてごめんなさいねぇ。何しろ急にとりこんでしまって。さ、さ、中にお入りください。お父さん!ほら、お客様のお相手をして!全く気が利かないんだから!」 京子の怒鳴り声に新一が転がるように外に出てきた。その姿を見たゲイルが小声で「My God」と呟いた。 「すみません。気が付かなくて。母屋は京子と綾ちゃんに任せて、離れに行きましょう。申し訳ないですが今日はそちらにお泊り下さい。」 「新一さん。私は60年ぶりに親友の弟に会ったのですよ。その弟が亡くなったのに平気な顔でお客面していられません。私も何かお手伝いさせて下さい。それがご迷惑なら勝一君の傍にいることをお許し下さい。お願いします。」 「親友の弟?どういうことですか?それにショウイチとは一体誰のことです?」 事情を知らない新一には何のことだかさっぱりわからない。説明するのも面倒なので、絹代は端的に言った。 「あなたのお義父さんは私の親友の弟だったのです。ですから傍にいさせて下さい。」 「え?し・しかし・・・・京子が何と言うか・・あいつは看護婦を志していただけに気が強くて・・時々ホントに困るんですよ。」 「え?看護師?あなたの奥様は看護婦になりたかったのですか?」 「そうですよ。それが何か。」 一子も同じく看護婦になりたいと夢見ていた。それが志半ばで死んでいった。絹代の目には優しい一子の笑顔が浮かんだ。 「か・ずこ・・・ちゃん。・・ううううう」 「My dear 泣かないで。・・・新一さん。事情は全て良が知っています。絹代おばさんをショウイチさん、つまりあなたのお義父さんの枕元に連れて行ってください。お願いします。」 優しく絹代の身体を支えながらゲイルは新一に言った。 「良が?そ・それなら京子も文句は言わんでしょう。・・わかりました。こちらへどうぞ。」 親日に案内され絹代が家の中に入って行くのを見届けると、ゲイルはひとまず新一が用意した離れに向かった。
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