何気なく声の主を見る良。しかしその表情に変化はない。それに比べロドリゲス夫人はまるで幽霊でも見たかのように両手で口を押さえ、大きく見張った目からは涙が溢れ出し身体がブルブル震えている。 「良・・・さん?」 「え?・・なぜオレの名を?」 そこで初めて良は夫人の傍に近寄りじっと顔を見つめた。やがて夫人の震えが伝染したかのように良の身体もワナワナと震えだした。 「・・・き・・きみは・・まさか・・いや・そんなはずはない・・そんなことがあるもんか!」 「良さん・・そのまさかよ・・」 「え?それじゃ・・き・ぬよ・・ちゃん? ンなことがある・・はず・・・。」 ガタガタ震えながらもしっかり頷く夫人。一体どうなっているのか綾子達にはさっぱりわからない。 「良さぁん!!」 「絹代ちゃん!!」 突然夫人が良に抱きついた。良もその身体をしっかり受け止めた。ワンワン泣き出す夫人と良を見つめますます困惑する3人だったが、明らかなのは初対面のはずの2人が実はそうではなかったということだった。加えてかなり親しい関係だということがその言動からうかがえた。彼等の思惑をよそに、良達2人はただ、 「良かった!生きていたんだね!」 「はい!生きていました!」 と何度も繰り返すことで何もかも分かり合えたようだった。
「お取り込み中申し訳ないが。良、いったいこれはどういう事か説明してくれないかね。」 たまりかねて新一が口をはさんだ。 「ああ・・・あんまり驚いたから・・さぁ絹代ちゃん。 中に入って。」 まるで恋人同士のような感覚で絹代の肩を抱き、初めてその存在に気づいたかのようにゲイルを見ると良は更に驚いた。 「ビル!・・まさか・・そんな!」 「ビル?違います。私は彼の孫でゲイル・カーペンターと申します。」 ゲイル氏は流暢な日本語で答えた。金髪に青い目のアメリカ人が上手に日本語を話したので今度は新一が驚いた。 「いやぁ、あんた日本語上手いねぇ!うちの人達は英語が堪能だけどもあんたは逆だ。いやぁ、たまげたなぁ!」 方言丸出しの新一に目もくれず、良は熱っぽい目で絹代を見た。 「孫? 若いときのビルに生き写しだ。・・絹代ちゃんもそう思わないかい?」 その姿に綾子はこれまでにない程悲しい気持ちになった。良が婚約解消を言い出した本当の理由はこれだったのかと、改めて自分達に未来はないのだと思い知らさせた気がした。確かに夫人は良よりもずっと年上だが、恋愛沙汰に年令は関係ないのだということ、そして半信半疑だったタイムトラベルが現実に起こったことだということが綾子の心を締め付けた。その心の葛藤を察したのか、ゲイルが優しく綾子の肩を抱き寄せそっと耳元で囁いた。 「大丈夫。あなたには僕がついています。心配しないで。」 「さぁ、とにかく中へ入って事情を説明してくれ。」 その場の空気が読めない新一のひと声で4人はそれぞれの想いを秘めながら家の中へ入った。
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