悶々とした気持ちのまま3日が経った日の午後。学校から帰ろうとした綾子の携帯が鳴った。見ると相手は高木だった。 「はい!・・はい!私です。え?本当ですか?これから会って下さるんですか? はい!すぐ伺います!場所は・・・はい。エターナルならわかります。はい。えっと 今4時ですから一時間後には行けると思います。はい!ありがとうございます!」 電話の前後でこれだけ表情の変わる人も珍しいといえるほど綾子の顔付きは違った。駅までの1キロを短距離ランナーも驚くほどのスピードで駆け出した。このときばかりは後先を考える余裕などなかった。案の定、駅に着いた時の彼女の髪はボサボサ、身体はフラフラの状態だった。それでも約束の時間の15分前にホテル・エターナルに到着すると、落ち着かない様子のままロビーで高木達を待った。高木以外の人達の顔を知らないので彼に来てもらわなければ前に進めないのである。 ジャスト5時。エレベーターのドアが開き4人の人物が降りて来た。まず高木と酒井とおぼしき男性が出て来た。次にアメリカ人の若い男性ともう1人、東洋系の顔をした老婦人だ。 「やぁ、綾子さん。お待たせしたね。何だかとても疲れているようだが大丈夫ですか?・・・・・ そうですか。じゃ、簡単に紹介しましょう。綾子さん。こちらが酒井君。こちらが吉川綾子さんだ。・・・そしてこちらがカーペンター氏の孫でコンチネンタル出版社社長、ゲイル・カーペンター氏。若いがなかなかのやり手でね、年は34歳。まだ独身だそうだよ。こちらの女性はミセスロドリゲスだ。・・・もちろんレッキとした日本人だよ。」 高木から紹介されやや赤くなりながら3人に挨拶する綾子だったが、東洋系の女性だと見た老婦人が日本人だったことと、カーペンター氏の孫なる人物があまりにも若いのに驚いた。 「日本の方、だったのですか?」 「ええ。わたくしは日本で生まれ終戦後アメリカ人と結婚し、現在はニューヨークに住んでいます。この子、ゲイルに無理を言って今回連れて来てもらいました。 静かな笑みをたたえた老婦人には、誰もが親しみを感じさせる何かがあった。 カフェテリアに落ち着いた5人は、こうして出会うことになったいきさつを語り合った。 綾子の事情は高木と酒井から一通りカーペンター氏に伝えてあったものの、ロドリゲス夫人が来日することになった事情を3名は知らなかったため、話題の中心は必然的にそちらに重点が置かれた。しかし何故か夫人は多くを語らず、とにかくカーペンター氏の知人を捜しているという人物に会わせてくれの一点張りだった。これではいつまでたっても埒が明かない、ということになり、急遽、翌日綾子が2人を良の待つ病院へ連れて行くことで落ち着いた。
子ども達には申し訳ないと思いつつ綾子は一旦学校へ戻り、まだ残っていた学年主任を通して2日間の休暇願いを出した。ここ三日ばかり暗い表情だった綾子だけに校長も快く許可してくれた。
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