絹代が観音開きの扉を両手で押すと、ギッギッと音がしてそれは開いた。目が暗さに慣れてくると1人の男がケガをして横たわっているのが目に入った。その男を認識した途端、良達は思わず絶句した。なんとその男は金髪で青い瞳を持っていたからだ。その男もギョッとしたようだったが絹代の姿を見つけると安心したように再び横になった。 「大丈夫よ。この人達はあたしの友達なの。」 絹代の日本語はどうにかその男に通じるらしかったが、すかさず良が英語で話しかけると、男は気でも狂ったかのように休む間もなく喋りだした。なんの取柄もない普通のサラリーマンだった良の唯一の特技といえば、英語を日常的に話せることだった。これは彼の祖父の教育方針で、“英語を日常会話として扱えないようではこれからの世の中は生きていけん!”というのが口癖で、彼の母親も同様に教育されていた。そのお陰で今、こうして外国人と意志の疎通が図れるのだ。それをポカンと口を開けて見ていた3人に対し、この青年との会話を要約して聞かせた。 「名前はウイリアム・カーペンター。アメリカの水兵だそうだ。南方に2年程駐留していたが、今回上層部の命令で日本に来る途中甲板から海に落ちてこの島に流れ着いたらしい。南方の様子を絹代ちゃんに伝えたが伝わったかどうか心配だと気にしていたから大丈夫だと伝えておいたよ。彼はケガが直り次第、軍に戻りたいと言っている。どうだい?」 その言葉にサッと一子が反応し、ウイリアムの容態を診た。 「・・・・このぶんならあと一週間もすれば大丈夫よ。」 良がそれを通訳すると、ウイリアムはホッとしたようにため息を漏らした。その目には涙が滲んでいる。なにやらポツリと呟いた。 「敵国の自分を助けてくれてありがとう。と言ってるよ。」 ウイリアムにつられて一子と絹代の2人もお互いを抱き締めて泣いた。しかし勝一だけは敵意をあらわにしている。その後、彼等はウイリアムの容態を案じつつ、神社に戻った。
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