回診の時間となり木村がいつものようにやって来た。普段通りの受け答えをしたつもりの良だったが、そこは餅は餅屋のたとえどおり、木村にはお見通しのようだった。 「何か心配事があるようですね。表情を見ればわかります。一応私も医者ですからね。・・・察するに綾子さんとの事でしょうか。――― どうやら図星のようですね。・・この病気は傍で力になってくれる人が必要なんです。できれば彼女に力を貸していただきたいと考えていたのですが・・・ムリでしょうかね?」 「先生。なるべく誰の手も借りず治療したい、というのはダメですか?」 「え?ええ、まぁ無理・・というわけではありませんが・・・お勧めできることではないですね。ご家族の方の協力なしでは不可能に近いでしょう。私としては綾子さんが適任だと思っていたのですが・・・」 その時、2人の会話を入口で聞いていたのか当の綾子が飛び込んできた。 「せ・せんせい!私、大丈夫ですっ!やります。やらせて下さい!」 「綾子!」 「おお!あなたが協力してくださるなら百人力です。・・それではナースステーションにいらして下さい。細かいことを相談しましょう。」 憮然とした顔の良を残し、2人は出て行った。 説明が終わると木村は満足気に綾子を送り出した。病室に戻った彼女は窓の方を向き自分い背中を向けている良に向かって呟いた。 「私はもうあなたの婚約者でも彼女でもないわ。ただの幼馴染みよ。その幼馴染みが苦しんでいるのを見て見ぬフリはしたくないの。だから良ちゃんも友人の手を借りることに何も負い目を感じなくていいのよ。私はこれまで充分笹崎家の方々にお世話になってきたわ。これはその恩返しよ。あなたが直ったら私はもうあなたに近づかないから安心していいわ。私の最後のわがままだと諦めて協力させて欲しいの。いいわね。」 一旦口にすると誰の言う事も聞かない性格は良に対しても同じだ。ことに(良の)病気に関することだけに始末が悪い。だが良も意地っ張りの性格なので、ありがたいと思っても素直に言葉にするのはプライドが許さず黙したままだ。するとそれを肯定と受け取った綾子は、早速行動を起こした。 「えっとまず・・・病気の原因を探ること・・これはもうわかっているから済みね。・・次は・・っと・・・」 木村医師の指示を細かく記した手帳を見ながらひとり言のように呟く綾子に、良は背中を向けたままぶっきらぼうに言った・ 「・・・・お前がもらった本を書いたウイリアム・カーペンターの昭和20年以降の消息と交友関係を調べればいいだろう。」 「えっ?・・ああ、そうねぇ。 えっ!じゃ、いいのね?私がやっても。わかったわ。早速調べてみるわ!」 協力を許された安堵感から嬉し涙を流しながら綾子は吉報を待ってね!と言い残し、軽快な足取りで病室を出て行った。ドアがバタンと閉まると良は1人呟いた。 「悪いな。オレのために。」
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