待つこと40分。ようやく許可が下り、病室に入ると既にシーツや布団は新しいものと取り替えられ鎮静剤を打たれた良がスヤスヤ寝入っていた。その姿に3人はホッと一息ついた。すると木村医師がナースステーションに来て下さいと彼等を促し、先に立って廊下に出た。 「さっきまでは何ともなかったのに一体どうしたんですか?」 腰掛けるや否や、木村医師はイライラした様子で切り出した。突然起きた発作の原因を知りたいということだ。新一と京子はあまりのことに動転し、パニック状態になり説明ができそうもないので代わって綾子が答えることになった。良が鼓島での体験を自ら話したのはこれが始めてのことだったので、彼女はひと言も聞き漏らすまいと必死で耳を傾けていたため、ほとんど忠実に良が言った事を木村に述べることができた。話が終わると木村は眉間にしわを寄せ、何かを考えあぐねている様子だった。やがて3人をぐるりと見渡すと、発作の起きる状態がどういう時なのかおおよそ見当がついた。その状況に少しづつ身体を慣れさせていく治療をしましょう。と言った。3人に異論があるはずもなくただ、宜しくお願いします。というほかなかった。 その足で勝和の部屋へ行くと、何やら様子がおかしい。具合が悪いのかと聞いてみてもなんでもないの一点張り。布団を頭から被りガタガタ震えているのだから、何でもないはずはないのだが、医者を呼ぼうとする不機嫌になる始末だ。年寄りのわがままには付き合っていられないわ!と実の娘である京子がまず匙を投げた。新一と綾子は義理の仲なのでそう無碍(むげ)にもできず、ただオロオロするばかりだ。隣のベッドに寝ていた患者が言うには、昨夜からずっとその調子でせっかく出た朝食にも手を付けず、そのまま戻してしまったそうだ。食後の検温に看護師が来た際には、何が何でも今日中に退院するとダダをこね、看護師を困らせた挙句またこの格好になったらしい。 その時、午前の回診時間がきて医師が病室に入ってきた。 「佐々木さん。今日退院したいそうですね。ではまず血圧を測らせてください。―――― 142の85。・・・良いですね。食事は?(看護師から説明を聞いた後)あ、そう。わかりました。そういうことなら退院しても大丈夫でしょう。でもいいですか。お宅に戻ったら今日1日は安静にしていて下さいね。・・・じゃ、のちほど会計の方から連絡がありますから、それまでここでお待ちクダサイ。では佐々木さん。お大事にして下さいね。」 3人の心配を他所にいとも簡単に退院許可が下りてしまった。慌ててお金の心配をする京子を尻目に当の勝和はバッと起き上がり、自らサッサと帰り支度を始めた。あまりの元気よさに呆気に取られる3人。 ともかく会計を済ませ4人は帰宅した。ところが安静にしないとダメよ、という京子の声にも耳を貸さず、勝和は自室に引き篭もり呼ぶまで絶対誰も部屋に近寄るなとピシャリと戸を閉め切ってしまった。ホントに年寄りのわがままには付き合っていられないわ!と勝和の勝手にさせておいて京子は隣近所の手前、一応退院祝いをすることにした。しかし綾子は良の身体が心配でいても立っても居られず急いで病院に戻った。
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