帰宅した新一と綾子から良の入院を聞かされた母京子は、あたかもそれが綾子に責任があるかのように責め立てた。新一が庇ったせいでその怒りに拍車がかかり、金輪際綾子に笹崎家の敷居をまたがせないという始末だ。仕方なく綾子はその夜1人淋しく病院近くのホテルに部屋を取った。しかしその淋しさよりも良の身体のことが心配で眠れぬ夜を明かした。 翌朝。あまり食欲はなかったが、食べなければ身体が持たないとホテル内のレストランでトーストとコーヒーを胃に流し込んでいると、新一が慌しく駆け込んできた。昨日の京子が取った非礼の侘びと、それを阻止できなかった自分の不甲斐なさを訴えたかったようだ。 「おじさん。もういいんです。おばさんの言う通り、私がもっとちゃんと良ちゃんの健康管理をしていればあんな風にならなかったんじゃないかと思うから。私の方こそおじさんやおばさんに申し訳なくて。夕べあれから反省したんです。本当にごめんなさい。」 「何を言うんだね。悪いのは私だよ。みんな綾ちゃんに任せっきりにしてしまって。おばさんもね、あの後、私の説明を聞いて早とちりして綾ちゃんにとんでもないことを言ってしまったと反省してね。ホテルの玄関先まで一緒に来たんだけれど、どうしても綾ちゃんの顔を見ることが出来ないって言ってね、外で綾ちゃんの許しが出るのを待ってるんだ。」 「えっ。おばさんが?!」 それを聞くと綾子は手に持っていたトーストの半切れを下に落とした。しかしそれを拾おうともせず慌てて外に出た。 車の前でしょんぼり立っている京子の姿を見つけると、綾子は傍に駆け寄り「ごめんなさい!おばさん!」 そうひと言言ったきり京子の胸にすがって泣いた。 「私の方こそ悪かったわ。ごめんね!何も知らずあんた1人を悪者にして。ごめんね!ごめんね!」 その光景を傍らで見ていた新一はホッと胸を撫で下ろしていた。
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