病院に着き受け付けで病室案内を請い、部屋に行った3人はそのまま棒立ちになった。救急車で運ばれたというので生死の境を彷徨っている状態を想像していた彼等だったのだが、当の本人はケロリとしたもので、ベッドに起き上がりアイスクリームを頬張っていた。看護師に 『お孫さん夫婦が帰って来られるので庭の草刈をしていたところ、脱水症状を起こして倒れたんですよ。何も心配いりません。2,3日もすれば元通りになります。担当の先生があとで詳しい説明をしますからそれまでお待ちください。』とにっこり笑って事も無げに言われ、唖然とする3人。 「お義父さん!」 「じいちゃん!人騒がせなことしないでくれよ!」 新一と良が同時に叫ぶ。 「いやぁ悪い悪い。わしもな、まさか草刈をしていてこんな大事(おおごと)になるとは思ってもいねぇがっただよ。ワシが一番びっくりしただよ。すまん、すまん。」 「まったく!人を何だと思ってるんだ!」 良の怒りはなかなか収まらない。 「良ちゃん。おじいちゃんもなりたくてなったわけじゃないんだから、そのへんで許してあげて。」 たまりかねて仲裁に入った綾子の取り成しで良は不承不承黙った。 「おお!さすが綾ちゃんだ!今がら良を尻に敷いでいんのがい?いやぁ、良(い)い事(こ)っだ!ふぉっふぉっふぉっ。」 百万の味方を得、調子に乗る年寄りに4人部屋ということも忘れ、再び新一と良の怒りが爆発した。 「お義父さん!」「じいちゃん!」 「うっせぇなぁ!こっちは今朝から何も食えないでイライラしてるんだ!静かにしろよ!」 斜め向かいに寝ていた若者が2人を見て怒鳴った。 「すみません。ほらおじさんも良ちゃんも謝って。」 強引に頭を下げさせると、キラッと良の目の片隅に光が入った。その若者が手にしていたコンパクトミラーに太陽光線が反射して光ったのだ。次の瞬間、なりを潜めていた良の発作が起きた。今度の発作は今までのものとは比べ物にならない程すさまじいものだった。額や腕から一挙に脂汗が吹き出し、動物の咆哮のような叫び声を上げ、のた打ち回りながらあらゆるところに身体をぶつけた。その声を聞きつけた看護師が駆けつけ、良の身体を押さえつけようとしたがその暴れ方が激しく、連絡を受けた医師が3人がかりで鎮静剤を打ち、ようやく落ち着いた。しかし気がついてまた暴れ出さないとも限らないので、一旦身体をベッドに拘束した。その後、こうなったいきさつを聞きたいと担当医の木村に新一と綾子はナースステーションに呼ばれた。ワシも行くと祖父の勝和(まさかず)も同行した。勝和(まさかず)と新一にしてみればこんなことは前代未聞。何が何だかわからない、見当もつかないと声を揃えた。そして綾子の番になった。彼女は言うべきかどうか迷った挙句、隠し通せるものではないと、それまでの経緯を話し出した。それでも恐らく100%信じてもらえないだろうと前置きすることは忘れなかった。
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