絹代がいなくなった途端、勝一がブツブツ言い出した。 「こんな非国民に何ができるって言うんだ。戦争が8月で終わる?それも大日本帝国が負けるなんて言う奴のどこを信じろって言うんだ!」 「勝一、落ち着くんだ。確かに君の時代の人達にはオレの言う事全てがウソに聞こえるだろう。だがな、これは本当の事なんだ。けどそんな事大きな声で言ってみろ。もしかしたら歴史が変わるかもしれないんだぞ。だから内緒だって言ったんだ。 ああ、そうさ。日本はアメリカ軍に原爆を落とされたことで完全降伏するんだ。終戦の日は8月15日。原爆投下は8月6日の広島と9日の長崎だ。よく覚えておくんだな。――― だがオレがこの島の救世主だなんて一体どうこうことなんだろう・・・・」 良の話は一子・勝一2人の姉弟にとってある意味予言のように聞こえた。21世紀に生きる良にとっては歴史で習った周知の事実でも、この2人にとっては未来の出来事なのだ。すぐに信じろという方が無理なのかもしれない。 「じゃ、日本はどうなるんだ!僕は絶対信じないぞ!日本が負けるなんて!」 いきり立つ勝一にふかし芋を数本手に持った絹代が言った。 「勝ちゃん。この人の言う事は本当よ。このまま戦争を続けても戦況は悪くなる一方だわ。新聞やラジオでは勝利を収めて進軍し続ける兵隊さんを励まそう。なんて言ってるけど、本当は南方に行った人達全員が玉砕し続けているのよ。それを軍は秘密にしているんだわ。」 「絹代ちゃん・・・・どうしてそんな事知ってるの?」 「・・・あなた達。秘密守れる?(と3人の顔を見渡して)・・・じゃ、こっち来て。」 絹代が先頭になり行き着いた先は、神社の裏山にある小さな祠(ほこら)だった。誰にも見られないように木の枝や葉っぱで隠してあったため、それとわかる者でなければそこに祠(ほこら)があるとは全く気付かないだろう。
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