その後。話はトントン拍子に進み・・・に見えたが、実際そう上手くはいかなかった。早速田舎の両親に連絡し2人が結婚する旨を報告すると、父母はもろ手を挙げて喜んだ。京子に至っては 『あたしは絶対そうなると思っていたのよォ』 などと言う始末。いつぞや上京した際に言ったことなどすっかり忘れている様子だった。式はいつにする?とか、披露宴はこっちとそっちの両方でやらなくちゃね!とか、果ては式の日取りはこっちで決めるわね。と勝手にまくし立て一方的に電話を切ってしまった。 問題は良自身にあった。帰ってきてから2〜3日は平穏無事だったのだが、アパートの近くで道路工事が始まった途端、その音に極度に怯え、パトカーのサイレンが鳴ったとき等は、空襲警報だ!と座布団を頭から被り、押入れに隠れる始末。ついには夜中に突然飛び起きてところ構わず吐くようになった。一緒に住むのは時期尚早と、一旦綾子は荷物を全部自分のアパートに引き払おうとしたのだが、朝、良を訪ねる度に吐叉物が散乱しているのを見て彼の身体が心配になり、アパートを全部引き払って良の部屋に引っ越した。 その夜から綾子は、良が布団に入り寝入ったかと思った頃、突然うなされながら飛び起き、その場で吐くのを何度も見るようになった。体中びっしょり汗をかき、何かを追い払うように両手で宙を掻き、ぶるぶる震えながら怯えるのだ。そうかと思えば、突然嬌声を上げる。こんなことが何日も続いて隣近所から苦情が来ないのが不思議なくらいだ。これではどんな強靭な肉体の持ち主でも参ってしまうに違いない。引っ越してから1週間目。堪りかねた綾子は夜が明けるのを待って、朝一番に良を病院に連れて行った。
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