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作品名:いつか きっと 作者:Shima

第46回   第46話
  翌日は日曜日だったので朝から部屋の掃除をしていると、例の如く結城が訪ねてきた。昨夜は良のことが心配で帰れなかったため、綾子はそのままアパートに泊まったわけだが、(当然寝所は別である)まさか9時前に結城が来るとは予想もしなかった2人だった。最近の結城の気持ちの中では良が不在であることが当たり前のことで、綾子が制するのも聞かず強引に中へ入ろうとした彼の前に当の良が立ちはだかった。良にしてみれば友人が自分を心配して訪ねて来てくれたのか!と感激の行動だったのだが、結城にとっては下心があっての訪問である。突然の良の出現に驚き、綾子に向かって“あとでまた来ます”とひと言だけ言って帰ってしまった。するとこれまた当然のように隣の住人が顔を出し、綾子に向かって“大丈夫ですか?”と声を掛ける。綾子も“大丈夫です。いつもありがとうございます。”と答える。何が何だかわからない良は、綾子を問い詰めた。初め答えを渋っていた彼女は、良の執拗なまでの詰問に事実を述べ始めた。
  良がいなくなって少し経つと、結城は良の安否を気遣いつつ自分にしつこく付きまといだした。いわゆるストーカー行為に出た。あまりのしつこさに隣の杉村という学生が結城が来たら追い払ってやると申し出てくれたのだ。良にしてみればその内容は寝耳に水の話だった。確かに綾子は美人で人一倍他人のことを思いやる優しい女だ。しかし自分の留守中に友人である男が綾子を狙ったとは到底信じがたかった。だがもし事実なら、言語道断!断じて許せることではない。さっそく真相を確かめようと結城の携帯に電話をかけたが、相手が良と知ってか指だし音は鳴れど結城は出ようとしない。やはり綾子の話は本当なのか?更に確かめるべく隣の杉村を訪ねた。すると彼はあっさりとその事実を認め、逆に彼女をしっかり掴まえておかないと大変なことになりますよ。と注意された。
  「何て奴だ!今度会ったらただじゃおかねぇ!」
部屋に戻るなり良の怒りが一気に爆発した。あまりの剣幕に綾子の方が面食らってしまった。
「どうしたの?変よ。今まで私のことなんて気にも留めなかったのに。  ねぇ、良ちゃん、変よ。おかしいわ。」
「綾子。オレと一緒になってくれ!」
突然の言葉に綾子は自分の耳を疑った。
「え?  今、何て言ったの?良く聞こえなかったわ。」
「オレと一緒になってくれって言ったんだ!2度も言わすな!」
「え?・・・そんな。そんなことってあり?・・・だって今までずっと私のことなんか眼中になかったのに、急にどうしたって言うの!結城さんが私に付きまとったから惜しくなったのね?・・・ひどいわ!私は良ちゃんの所有物じゃないのよっ!」
「違う!オレは一子達に約束したんだ。元の世界に戻れたらお前と一緒になるって。だから奴の件が無くてもオレはお前に申し込むつもりだった。あの時代に行ったからこそお前の大切さが身にしみた。オレはずっとお前を見ていたようで見ていなかった。あの時代に行って初めて気づいたんだ。オレは小さい頃からお前だけを求めていたんだと。」
じっと綾子の目を見つめる良の瞳は真剣そのものだ。
「じゃ、今まで付き合ってきた女の人達は何だって言うの?私は都合のいい女じゃないのよ!」
綾子もくじけそうになりながら涙声で精一杯の抗議をする。
「・・・あれは間違いだった。・・・今なら言える。オレはお前だけを愛しているんだと。お願いだ。結婚してくれ。そして子供をたくさん生んで欲しい。頼む!」
必死に懇願する姿に綾子の頑なな心が揺れた。彼女の20年近くの想いがやっと通じたのだ。思い返せば彼女は良一筋に幼稚園から現在まで生きてきた。いわば良以外の男は彼女にとって異性としての対象ではなかった、ということだ。その想いがようやく届いたのだ。少しくらい焦らしても罪にはなるまい。しかし・・・・心と口とは全く別ものらしい。
「・・・・うん・・・」
涙でくしゃくしゃになった顔を両手で覆い何度も頷く綾子。
「綾子!」
しっかり抱き合う人。良の眼前に一子と絹代の笑顔が見えたような気がした。


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