1時間後。理由も聞かされず連れ戻された絹代がブツブツ言いながら家の中に入ると、今度は良に急かされ着の身着のまま再び外へ連れ出された。これが両親との今生の別れとは知らず、絹代の口からは正吉に対する不満が爆発していた。 海岸に着くとおもむろに良は猫の鳴きまねをした。するとどこからともなく一艘の小船が現れた。 「さ!早く乗るんだ!」 そこで初めて事の次第に気付いた絹代。絶対イヤだ!と砂浜に座り込んだ。自分ひとりが助かるのはイヤだ、助かるのならみんな一緒に!というのである。しかし事は急を要するのだ。船を漕いで来たアレックスが“どうしたのか?”と不思議そうな目つきで良を見た。 「絹代ちゃん。予定が変わったんだ。本当はオレだってみんなを助けたいよ。でも全てが変わったんだ。さぁ!早く乗って!」 そう言って良は嫌がる絹代を強引に船に乗せ、アレックスに船を出すよう指示した。 「良さん?良さんは乗らないの?一緒じゃないの?」 アレックスに手助けされ船に乗った絹代だったが、良が乗ろうとしないことに不安な声を上げた。 「オレは後の便で行くよ。だから心配しないで。安心して君は行くんだ。一子ちゃんに君の元気な顔を見せてやるんだ。いいね!オレが行く時までになるべく多くの人達を連れて来るよう努力してみるから! さぁ!アレックス行ってくれ!」 その声と同時に絹代を乗せた船は沖へ向かって進み始めた。その姿が小さくなるまで良は手を振り続けた。これが絹代との本当の別れになるだろうと思うと、グッと腹の底からこみ上げるものがあった。
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