ようやく辺りが静かになった。時計を見ると2時間程経過していた。外に出てみると風景が変わっている。草木は焼かれ、土さえも黒く変色しているのだ。一体これは何なんだ! 「これが戦争なのよ。」 冷静が一子のひと言が良の胸に染みた。 「マジかよ・・・」 「え?何て言ったの?」 「こんな事って・・・」 放心状態の良の腕を取り、一子はもう一方の手で勝一の襟を掴みさっさと歩き出した。 「姉ちゃん、どこ行くんだよ!」 「黙って!巫女さんのところへ行くのよ!」 ずんずん歩く一子と勝一に引かれ、良の足も歩調を合わせる形になった。 歩く道すがら、ずっと良は焼け野原になった景色を信じられない面持ちで眺めていた。初めて見る景色にも関わらず、何故かやり切れない気持ちになった。
神社に着くと、中は閑散としており、一子の声が良く通った。 やがて一子の同年代位の女の子が出てきた。姿格好からするとこの子が巫女らしい。巫女といえば老婆をイメージしていた良は意外に感じた。 「優さん。こちらが巫女の絹代さんです。」 「一子ちゃん。オレの名前間違ってるよ。オレは優じゃなくて優良の良の方。さっきは勝一の剣幕に圧倒されて否定できなかったけど、オレは良。わかった?」 「あら!すみません。もう!勝一ったら早合点で。いつもそうなんです。」 するとそれまで黙っていた絹代が突然良に抱きつき泣き出した。唖然とする3人。 「ど・どうしたの?絹代ちゃん!!」 慌てた一子が良から絹代を引き離した。 「絹代ちゃん?」 訳が解からず戸惑う良に一子が言った。 「私達・・・同級生なんです。絹代ちゃん!離れて!」 なおも抱きついたまま離れない絹代を必死で止める一子。 「ど・同級生?ははは・・なるほどね。・・いいよ、一子ちゃん。とりあえず絹代ちゃんの気の済むまでこのままでいてその後、話を聞いてみようよ。ね?絹代ちゃん。」 「・・・待ってた。あたし。あなたを待ってたの。 呼んでたらきっと来てくれるって信じてた。あなたはあたしたちを助けられる唯一の人よ。」 突然絹代が言い出した。 「え?それってどういう意味?良さんがあたし達を助けてくれるってどういうことなの?」 一子の必死の問いかけにやっと正気を取り戻した絹代が話しだした。 「・・・一子ちゃん。半年前にあたしが言った事覚えてる?一年以内に大変な事が起こるって。あれは本当の事よ。この島全体に危機が迫っているの。それが何なのかはわからない。それによってかなりの人が死ぬの。でも大丈夫。この人のお陰で助かる人もいるから。だからね、この人の言う事を疑わないで。お願い。一子ちゃん!」 良を見つめる絹代の目は尊敬と憧れに溢れていた。しかし当の良にとっては筋道の通らない話しにしか聞こえなかった。 「ま・待ってくれよ。オレはさっきも言ったけれど・・」 そう意気込んだところで腹の虫がグーッと鳴った。考えてみれば夕べから何も食べていなかったのだ。 「フフフ。朝ごはんがまだみたいね。待ってて。何もないけれど芋くらいならあったと思うわ。」 絹代はそう言いながら奥へ引っ込んだ。
|
|