「先程申し上げました米兵からの情報なのですが、近々この島の海底において原子爆弾の実験が行なわれるそうです。その破壊力たるや、この島全体を吹き飛ばす位の威力があるとか。そこで被害をなるべく小さくしようとした彼、その米兵ですが、島民を1週間以内に脱出させるよう指示してきたのです。その話を聞いて私はすぐ先生のお顔を思い出しました。私1人の判断ではどうすることもできず、又、村長達の悪事を聞いてからは村長に相談することも叶わず、こうして先生のご意見を仰ぎに参じたのです。私はどうすれば良いのでしょうか?先生。」 この時正吉は白山に教えを請うていた頃の子供に戻っていた。 「正吉。今の話は真の話なのかね?」 白山も教壇に立っていた頃の教師に戻っている。 「はい!」 「ううむ・・・信じられん。・・・事が・・・事が大きすぎる。本当の事を言えば島が蜂の巣をつついたような大混乱になる。されど言わねば誰も助からない。・・・お前ならどうする?最初に聞いたお前はどうしようと考えておるのじゃ?」 「私は・・・島と運命を共にしようと・・ご神体を守らねばならない立場にありますから。ですが娘だけは逃がしてやりたいと考えております。あの子は島の犠牲にさせたくありませんから。」 「そうか・・・お前は自決の道を選ぶのじゃな。・・・それなら私もそうしよう。生まれ育ったこの島と運命を共にできるのなら本望じゃ。・・・正吉。この話は島民に伏せておいたおいたほうが良いと私は思う。もし本当のことを言ったらお前だけではなく正枝や絹代、その良という青年も自決前に島の人達に殺されてしまうだろう。ここは静かに運命を受け入れる事じゃ。良いな?じゃが絹代とその青年は逃がしなさい。私はこの話を聞かなかったものとして命を運命に委ねる。お前も帰っていつもと変わらぬよう過ごしなさい。わかったね。」 白山に諭されると正吉も改めて事の重大さに慄(おのの)き、ここは黙っていた方が島民のため、とわが身を納得させ帰宅した。
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