村長と駐在の大島が当てにならないと知った正吉は、自分の恩師であり元小学校校長宅を朝一番に訪れた。実験云々の話はあまりにも重大な事柄なので一旦後回しにし、まず一子と勝一の件に重点を置いて村長達の悪行を語った。もちろnそれには米兵の件も話さねばならなかったが。 元校長の白山は、一通り話しを聞くと彼等の所業については思い当たる節があると言った。 白山はこの時代の教育者としては変わり者として知られていた。天皇絶対主義者はないのである。尊敬する人は福沢諭吉とリンカーンであり、愛読書は学問のススメ。よって現存長やその他の皇国主義者達からは疎まれつまはじき的存在だった。しかもそれをあまり気にしないところも彼等からすれば面白くないようで、ことある毎に白山の教育方針に問題があると難癖をつけていた。 「あまり他人の悪口を言うのは本意ではないのだが。」 そう前置きしてから、 「村長は20歳の頃、旅順の戦に加わった事があると言っておった。人が人を殺したり傷つけたりするのをイヤというほど見てきたから、もう二度とそういうものは見たくない。と私に言ったことがある。しかしね、そう言った彼の目つきはその行為そのものを楽しみ、悦に入っていたように見えたのだよ。旅順で何十人。203高地で何十人もの露西亜人(ロシア人)を殺したと自慢げに話していたからね。だから君の言う事もあながち嘘とは思えんね。しかし証拠がない。仮にあったとしても、村長と駐在の悪事を暴くなど今のご時世じゃムリだろう。私の話をまともに聞いてくれる者などこの島にはおらんし・・・・じゃが、一子と勝一にしてみれば無念だっただろうな。その時のことを想うと儂は・・・・。」 自ら語ったように今の情勢ではどうにも出来ないことへの悔しさと、2人の姉弟の不憫さを思い涙する白山。村長達との確執を知っているだけに正吉もそれ以上のことは言えなくなってしまった。 「先生。・・・・もう1つ・・・重大な話があります。」 「・・・?・・重大?・・何かね?一子と勝一の話よりも重大な話などあるものかね。」 「実は・・・島が・・・この鼓島が無くなるのです。あ、いやその可能性があると申し上げたほうがいいでしょうか。」 さすがの正吉も言いよどんだ。 「島が・・無くなる?・・一体どういうことだね?」
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