ジジジジ。真剣な顔付きでラジオの選局つまみをひねる絹代に正吉が声をかけた。 「どうしたんだい。お前が聞きたいような番組は何もやってないよ。」 「・・・・・」 「絹代。耳がないのかい?」 「・・・ごめんなさい。少し静かにしてもらえませんか。今重要な報道を聞こうと思ってるんです。」 「報道?今2時半だからその時間帯じゃないよ。それで何が知りたいんだい?さっき聞いたので良ければ教えるよ。 「え?本当ですか?・・・すみません。お父さんが聞いたもので良いので教えてください。良さんが知りたがっているの。なるべく新しい内容のものをお願いします。」 「そうか。じゃ私から直接伝えよう。」 「え?ダメよ。私が頼まれたのだから私の口から言わなきゃいけないんです。」 「・・・・絹代。その事で言っておかねばならないことがある。いいから座りなさい。いいかね。良さんはいずれ自分の住む世界に帰る人だ。それがどこか私は知らない。だがここでないことは明らかだ。いくらお前があの人を好いても叶わぬことなんだよ。確かにお前の呼びかけに応じて来てくれた人だから、お前の言う通り私達はあの人を信じ行動しようと考えている。だがそれだけのことだ。いずれいなくなる人だ。深入りだけはしないでおくれ。それに村の人達の目もある。神社の娘は得体の知れない男を引っ張り込んでいると噂になり始めているのをお前も聞いただろう。こんなご時世だ。みんなが飢えている時に、巫女のお前が人の口に上るような行いだけはしないで欲しい。分かるね。分かったならこれからはなるべく離れに行くのは控えなさい。食事はお母さんが持って行くから。いいね。」 思ってもみなかった父、正吉からの苦言に絹代は唖然となった。今まで全てにおいて理解のある父親だと思ってきた正吉が、友達の親と何ら変わらなかったことにショックを受けたのだ。おまけに私が良さんを好き?そんな事あるわけない・・・じゃ・・ない? 思い当たる節がいくつか脳裡に浮かんだ。それに良はこのままずっとここにいるものだといつしか考えるようになっていたことも事実だ。良とのことが村人達の噂になっていることは知っていた。といっても絹代は自分の両親だけはそんなことを気にするような低俗な人種だと思っていなかった。しかし世の中はそうではなかったのだ。大人は汚い!私はそんな大人にはなりたくない!だが、一家の当主である父親は絶対だ。絹代は泣きたくなる気持ちをぐっと抑え、自室に引き下がった。
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