バシャ!バケツの水が掛けられ、勝一の目が薄っすらと開いた。寒さで体がブルブル震える。 「寒いか勝一?この毛布を掛けてやってもいいんだぞ。ほうら。―― おっととと。その前にお前が知っていることを正直に言うんだ。東京の空襲はいつ、誰に聞いたんだ?」 何度となく上村の口から繰り返される同じ詰問。だが僅かに残された勝一の正義感が、良とビル、2人の名を口にするな!と叫んでいた。 「し・・しら・・ねぇ・・・」 「そうか。わかった。・・・おお!そうだった!1つ言っておくがね、私は昔、柔道をやっておってね。得意技は関節外しだったんだよ。・・言っている意味がわかるかね?わからんか? 私がちょっとその気になればお前を肩輪にすることだってできるという意味だよ。・・・やってみようか?」 そう言うと上村はニコニコ笑いながらかろうじて正気を保っている勝一の右足を取りゆっくりと捻った。ギギギギ。ゴリッ!突然気味の悪い音が部屋中に響いた。 「ギャッ!!」 その叫び声と共に勝一は一瞬目を大きく見開き、その直後再び気を失った。上村が手を離すと、勝一の右足がゴトンと大きな音を立てて床に落ちた。しかしその足は勝一の体とは全く別の、あらぬ方向を向いていた。 「まったく。素直に吐けばこんなことにならずに済んだものを。手間を取らせおって。・・・まぁ、仕方がない。明日大島に始末させよう。」 いまいましそうに呟きながらペッとつばを吐き、何事もなかったように上村は土蔵を後にした。
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