勤労奉仕を終えて帰宅した一子は、勝から勝一が巡査に連れて行かれたことを聞かされるとすぐその足で駐在所に走った。 大島巡査は丁度、外出から戻ったところのようで、濡れ手ぬぐいで顔を拭いていた。 「駐在さん!」 一子の呼びかけに大島はギョッとしたように振り返った。 「な・なんだ! ああ、一子か。な・なにか用か。」 「勝一が!勝一が何かしたんですか!」 「勝一?いや。何もしとらんよ。」 「叔父さんが勝一が駐在さんに連れて行かれたと言ったんです!」 「あ? ああ。確かに本官が勝一を連れて行ったよ。ただし、聞きたいことがあっただけで勝一は何も悪さはしとらんが。あの子は・・・・それよりも一子。お前たちが拾ったあの男は一体何者だ?」 「あの男?」 「ほれ。お前達が助けて神社に世話になっとるあの男だ。」 「良さんのこと?良さんがどうかしたの?」 良の名前を口にした途端、なぜか一子の顔は赤らんだ。しかし大島はそれに気付かず、親しげに一子の肩をポンポンと叩いた。 「おお!その良という男だ。聞けばおかしな事を言うとるとか。一体何を言ったんだ?」 「何って別に・・・例えばどんな事?」 「例えば?・・・そうだな。例えば、東京が空襲に遭うとか。そういった事だよ。」 「え?!東京が?どうなったの?どうなったのよ!」 大島の胸元をグイグイ引っ張り食って掛かる一子に、さすがの大島もタジタジになった。 「か・かずこ!お前は女のくせに仮にも警察官の儂に何をするか!」 「あ!ご・ごめんなさい。で・でも。それって本当のことなの?」 「口答えせんでいい!お前は本官の質問にだけ答えればいいんだ!」 「は・はい。」 「今一度聞く。その良という男。変わったことを言わんかったか!」 「い・いいえ!何にも言いません!」 「何か隠しているのではあるまいな!」 「いいえ!どうして私が駐在さんに隠し事をしなくてはいけないんですか?」 「口答えをするなと言ったろう!本当に知らんのだな!」 「はい!」 「そうか。わかった。では帰れ。」 大島は手で追い払うように一子を外に出した。 「駐在さん!勝一は!」 「ここに連れて来る途中逃げられたわ。全くすばしっこい奴だ。一子。勝一が帰ったらすぐ連れて来るんだ。いいね!」 それを最後に大島はぴしゃりと扉を閉めた。一子は1人、駐在所の前に取り残された。
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