偶然ラジオ放送を聴いていた駐在所の大島は突然大声を挙げた。 「な・なんだとぉ!と・とうきょうがB29の焼夷弾にやられて壊滅したぁ?!な・なんてこった!こりゃ村長さんに知らせにゃぁ!」 手に触れた物を引っ掴むと大島は村長宅に駆け込んだ。 「そ・村長!今のラジオ放送を聴かれましたか!」 大島の怒鳴り声にやや落ち着きを欠いたような表情で村長の上村が奥から出てきた。その顔付きからやはり放送を聴いていた様子が窺えた。 「おお。大島か。あんたも聴いとったか!一体何がなんだかさっぱりわからん。ついこの間は特攻隊が華々しく活躍しとると言っとったばかりじゃというに。」 もちろんこの頃の一般庶民には、日本がミッドウェーでの敗戦に始まりガダルカナル島、サイパン島、レイテ島の主な南方の戦いに負け続け、その挙句ほとんどの兵士が名誉の戦死を遂げていたことは知らされていなかった。1945年の3月には沖縄本島に米軍が上陸。その後の戦いで兵士及び島民合わせて20万人超の人命が失われた。その後も米軍は勢力を増大させ、東京空襲を行なう中継基地として硫黄島を占領、兵士2万人が亡くなっていた。それゆえ上村や大島が仰天したのも無理はない。ところが大島が急に顔を強張らせ、何やら上村に耳打ちすると上村の顔付きが変わった。 「ここに連れて来るんだ!」 強い口調で命令すると、上村は屋敷の中へ引込んだ。至上命令を受けた大島は、来た道を転がるように取って帰った。
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