(大変な事が起きる?一体何だろう。) 綾子との会話は突然の電池切れで終わってしまった。しかしその前の内容が気になった。確かに海底火山の爆発で島は沈む。しかし火山の爆発は自然現象だ。その現象以前にそれに関する記述があるのは不自然だ。もっとも出版するに当たって日にちを遡って付け加えた、ということはあったかもしれない。多分そうなのだろう。1人考え事に没頭していた良は絹代の声で我に帰った。 「大変よ!ビルがいないの!早く来て!!」 引っ張られるように昨日の祠に行くと、確かにウイリアムの姿はなかった。寝床は綺麗に片付けられ昨日まで人がいたという痕跡すらなかった。しかし隅の方に文字が書かれていた。傍によって目を凝らすと、ウイリアムが書いた絹代宛の深い感謝の気持ちと、直接会ってその事を伝えられない侘びの文だった。 「まだケガも直っていないのになぜなのよ!」 良から和訳を聞いた絹代は悔し涙を浮かべた。だが良にはウイリアムの気持ちが理解できた。恐らく勝一の存在が彼をそういう行動に走らせたのだろう。勝一はウイリアムを敵国の人間としか見ていなかったし、今にも飛び掛りそうな形相をしていたからだ。ウイリアムは勝一の口から自分の存在が漏れるのを恐れ、自ら姿を消したに違いない。 「そんな・・・」 口では信じられないといった風だったが、絹代も納得するものがあったようだ。 文章はまだ続いていた。10日後には東京上空から爆弾が落とされ、その後も各地で爆撃の被害に遭うだろう。この島もいつそうなるか分らないから気をつけて欲しい。最後に助けてもらったお礼は必ずする。と締めくくってあった。 「何ですって!東京が?・・どうしてそんな大変な事をビルが知っているの?」 「それがアメリカなんだ。一介の水兵でさえその事を知っている。その懐の大きさがアメリカなんだよ。日本はそういう国と戦っているんだ。分ったかい?日本がアメリカに負けた理由が。」 「・・・でも。この事はオレと君の2人だけの秘密にしよう。下手に騒ぐとパニック、いや、大騒ぎになるからね。黙っていたほうがいい。東京が空襲に遭うのは変えられない事実なんだから。」 良はショックを受けた絹代を促し祠を出た。
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