半醒半睡(はんせいはんすい)の状態で村岡はうなされながら5日後にようやく目を覚ました。周囲には気遣わしげな表情の直、兵吾、数馬の姿があった。 「せ・・・んせい?」 弱々しい声に本人が一番驚いたようだ。 「ご気分はいかがですか?」 「は・い。・・すこ・し・・何というか・・・雲の・・う・えを・・あるいているような・・・」 「それは仕方ありませんよ。やっと地上に戻って来たのですから。」 「?」 「村岡さんは現世とあの世の間をさまよっていたのですよ。そしてとうとう三途の川を渡らず戻って来られたのです。そのような気分になるのは至極もっともな事です。」 「さんず?」 フッと村岡の口元がほころんだ。事情を全く知らない直は何も考えずにそう言ったのであろうが、村岡には皮肉に聞こえたのだろう。直は直で村岡の笑みが安堵のものと解釈し、傷口を診ますからと創部側の布団をはいだ。包帯として巻いていたサラシを外すと、しばらく患部をみていたが、やがてホッとした表情になった。 「――― もう大丈夫です。このまま安静にしていれば10日ほどで起き上がることが出来るでしょう。」 直の言葉に兵吾の身体が大きく揺れ、声なき声で泣き出した。突然のことに数馬と直は目を丸くした。しかし村岡は慣れているのか、力の入らない手でその身体に触れた。 「ひょうご・・・お前、みなさ・・まに・ご・めいわくを・・かけていたのではあるまいな。・・・この方々は私のいのちを・・・2度までも・・救ってくださった方々なのだ。・・夢々失礼のないよう・・・・・いつまでもメソメソしていてどうするのだ。・・最後までしっかり己(おのれ)を見据えるのだ・・・わかったな。」 村岡の叱咤に兵吾はビクリと反応した。数馬にはその意味がすぐにわかったが、直にとっては意味不明なセリフにしか聞こえなかったようだ。 「大丈夫ですよ。20日もすれば床上げができますから。」 「いいえ・・・わたしは・・・わたしと弟は・・・すぐにでも江戸へ・・参らねばならぬのです。・・実は・・」 力を振り絞って起き上がろうとする村岡を数馬が制した。 「村岡さん。今は何も考えず傷を治すことが先決です。あとの事はそれから考えましょう。」 「しかし・・それでは貴公にごめいわくが・・」 「あなたは非常に大切な方だ。それはご自分でも承知しておられるでしょう。ですから直殿の許可が出るまでは当方の指示に従ってもらわねばならない。不服でしょうが、どうかそうして下さい。」 軽く頭を下げる数馬。村岡の閉じた目からツーと涙が流れた。 「かたじけ・・・ない。・・・もっとはやく・・貴公のような・・お人に巡り会っていたなら・・」 同調するように再び兵吾が泣き出した。
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