「村岡さんの具合ですが・・・」 兵吾の前では見せなかった苦渋の皺が直の眉間に現れ、村岡の容態が必ずしも良好だとは言えない、ということを物語っていた。 「危ないのか?」 数馬はいち早くそれを悟った。 「それが、何とも・・・・ 確かに強靭な身体と精神力を持っていることは既に申し上げたとおりなのですが、半月もしないうちに2度の大手術を受けたのですから・・・それに今日は治りかけていた腸が癒着していて腸閉塞を起こしていたんです。江戸からここまでの道のりをどのようにして来たのかはわかりませんが、かなり無理をしたのだと思います。傷口も開きかけていましたし、通常なら一日でこれ程までにはなりませんからね。あとは村岡さんの気力がどれ程のものか・・・それにかかっているとしか申せません。」 「・・・つまり。生きたいという執念があるかどうか、という事か。」 「ええ、そうですね。まさにその通りだと思います。凡人なら手術中に死んでいたでしょう。それほど大変な手術だったのです。」 事も無げに言う直に、今更ながら感服してしまう数馬だった。 「ううむ・・・俺はおぬしの腕を信じている。月並みなことを言うようで申し訳ないのだが、何とか助けてやってくれ。兵吾の事を思うとそれしか言えんのだ。」 数馬は顔の前で手を合わせ直を拝んだ。 「そんな!やめて下さい!あなたに拝まれても私は全能の神ではありません。あとは真(まこと)の神頼みをするしかありません。」 「すまぬ。だが今の俺の心境はおぬしが神様なのだ。」 がっくりとうな垂れる数馬に直はひと言だけ言った。 「一緒に祈りましょう。全能の神仏に・・・・」
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