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作品名:夢・幻(うたかた)の夢 作者:Shima

第68回   14年前の真実
  「・・・・静香という娘から聞きました。」
名前を言った途端、直の顔は真っ赤になった。どうやら酒のせいばかりではなさそうだ。
「女か。しておぬしとその娘とはどういう関係・・・!もしかすると・・」
黙って頷く直。
「おぬしも隅には置けんなぁ。で、武家娘か?・・・そうか。・・・察するにその娘の家に出入りしていたのが天満屋で、そういう関係でおぬしのことが判り、お絹が患者として来た、というわけか。」
「はい。」
直の声は今にも消え入りそうだ。
「ゆくゆくは夫婦(めおと)になるのか?」
「そのつもりです。」
「左様か。・・・それでその一味は?」
「はい。天満屋を襲ったのが7日前。その後は足取りさえ掴めない状態のようです。」
「余罪はあるのだな?」
「江戸にその姿を現してからちょうど2月(ふたつき)になりますが、天満屋を含み3軒の大店(おおだな)が襲われています。」
「2月(ふたつき)前ということは、俺がおぬしとであった頃だな。それにしても公儀も知らぬとは職務怠慢か。・・・現在(いま)は北町か・・・」
「そこで数馬殿にお願いがあるのです。―――― 天満屋の仇(かたき)を討っていただけませぬか!」
 
  「何だと!」
「数馬殿に漁火一味を捕えて頂きたいのです!」
「馬鹿なことを言うな!俺は奉行所の人間ではない!」
「それは重々承知しております。あなたが目付けであるということも。それを承知でお願いするのです!江戸で一番の剣の使い手であるあなたにしか出来ない事なのです!」
畳に額を擦(こす)り付けるように頭を下げる直。
「・・・そこまでしておぬしを駆り立てるものは何だ?」
「は?」
「俺に土下座まがいのことをしてまで仇(かたき)を討ってくれと頼む理由だ。」
「―――――― 実は・・・」
と直がぽつりぽつり話し出した内容は驚くべきことだった。絹という娘、実はさる武家の落とし種なのだということ。14年前にお手つきになった女中が赤子を孕(はら)んだまま天満屋へ払い下げになり、そこで絹を産んだ。それは周知の事実だったが、不憫に思った本妻の娘がお絹親子を屋敷に出入り自由とし、そのまま現在に至っているということだった。
「・・その武家娘がおぬしの想い人というわけか。」
答える代わりに直の顔が再び真っ赤になった。
「していずれのご家中だ。」
「はぁ。・・直参旗本、柴田日護守殿のご息女です。」
「直参? おいおい。おぬしまた大変な娘と恋仲になったものだなぁ!」
「はぁ。何ともこればかりは・・・」
「静香殿もおぬしの患者だったという事かい?」
「いいえ!静香殿のお父上が兄の患者でした。ある日、代診として柴田家を訪れた際、一目ぼれをしてしまって・・・」
「で?手を付けた、か?」
「と・とんでもない!私達はそんなことはしておりません!」
額に筋を立てていきり立つ直。
「すまん、すまん!冗談。冗談だ。おぬしは俺とは違う、ということを忘れていた。    話を戻そう。その静香殿にお絹の両親の仇(かたき)を討って欲しいと頼まれたんだな?」
「はい。ところが私は医学以外何の心得もない男です。そこで数馬殿にお願いしたいのです。」
「しかしそれは奉行所管轄であろう。」
「その奉行所が心許(こころもと)ないのであなたに頼んでいるのです。どうかこの通り!!」
再び土下座する直に、数馬は大きなため息をついた。


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