数馬と夜を過ごすのは初めてではないのに、主の部屋にその姿がないのを確認すると何故かホッとする茉莉だった。だがいつまで待っても数馬は入ってこない。静寂が辺りを覆っていく。疲労と部屋の中が程よく暖かいため、茉莉は自分でも気付かないうちに座ったまま眠ってしまっていた。ようやく数馬が部屋に戻った時には茉莉はその状態で熟睡していた。その姿に申し訳ないことをしたと思いつつ、布団にそっとその身体を横たえてやった。 「疲れたんだろう。ゆっくりお休み。」 そう呟くと自分もその隣にごろりと横になった。2つの寝息が1つになった時、2度目の初夜が静かに過ぎていった。 それから瞬く間に10日が過ぎたが、茉莉は何年も前から鏑木家にいるような懐かしい気持ちになっていた。逆に数馬の方が婿に来たような落ち着かない様子で、佐々岡に渋面を作らせている有様だった。 「あなた。今宵は井上様のお宅へ参られるのですよ。なれどお早めにお戻りになられますよう。」 「おお!左様!本日でしたな。さすが茉莉さん!」 「あなた!その茉莉さんはお止めくださいませ。わたくしはあなたの妻になったのですよ。それではわたくしがあなたを尻に敷いているように思われてしまいますわ。」 「ふむ。なるほど・・・まぁ良いではないか。誰に何と言われようと俺が幸せ者なのは真(まこと)のことなのだからな。・・・では行って参る。」 爽やかに出仕するその後姿にフッとため息を漏らす茉莉。これも幸せということなのだろうか、と感じてしまうのだった。
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