「九頭竜殿!隼人殿はご在宅か!」 奉行所の役宅に飛び込むように走ってきた数馬は隣近所にも聞こえるほどの大きな声で叫んだ。その声に呼応するかのように2人の男が奥から走り出てきた。いわずと知れた隼人と宗太郎である。3人は無言のまま再会を喜び合った。 すると奥からまた1人、今度は丸髷に結った女性が出てきた。 「あなた。そのようなところで鏑木様に失礼ではございませぬか?」 「おお!そうであった!鏑木殿。これが某(それがし)の家内、結(ゆい)でございます。」 「お初にお目にかかります。此度は主人共々・・・・」 涙ながらに礼を言う結。その美しさは西国一ではなかろうかと数馬は思った。日本一としなかったのは数馬にとっての一番は言わずもがな、茉莉であったからだ。 「ご新造。あなたのご主人を助けたのは某(それがし)ではありませぬ。これも時世という大きな流れです。某(それがし)はほんの少し手助けをしたまでのこと。これを機会に某(それがし)も隼人殿や宗太郎殿のお仲間に入れていただきとうござる。」 「何と光栄な!私達の方こそ鏑木殿と近しゅうできる喜びで一杯ですのに!さあ、こちらで祝杯を挙げましょう!」 そう言って隼人と宗太郎は数馬を促し、中へ入った。そこには結が乳母、九重から教わったという手料理が所狭しと並んでいた。 「田舎料理で鏑木様のお口に合いますかどうか。」 遠慮がちに座を勧める結ににこっと笑いかけた数馬は、 「ご新造が作られたと言うのですか?この料理を?なんと、実に素晴らしい!」 と絶賛した。その笑顔と優しい言葉に顔を赤らめ下を向く結。その恥らう姿を見て数馬は、 「宗太郎殿。武家の姫君ともあろうお方が自ら料理をする。これからの日本は男も女子も上下身分の隔たりなく何でもやらねばなりませんね。」 と矛先を宗太郎に向けた。 「と、茉莉に伝えておきましょう。」 宗太郎も負けじとやり返す。 「いやぁ。はははは!ですがそれはまたの機会にして下さい。」 「無論。承知いたしておりますよ。」 その後、結も交え隼人の漂流中の話を夜の更けるのも忘れ、時には涙ぐみ、また時には笑いながら耳を傾ける数馬と宗太郎であった。
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