茉莉の快復を知った父と兄はすぐ部屋に飛んできた。そして口々に良かった、良かったと肩を叩き合って喜んだ後、とんでもない事を言い出した。 「茉莉。明後日、鳥居様のお屋敷で会ってもらいたい人物がいる。」 「え?父上、何ですの?急に。」 「見合いじゃ。お前がいない間鳥居様と儂との間で決定しておいた。このような失態をしでかしたお前じゃ、異論は許さぬ。相手方はいつでも良いとのことだった。それゆえこちらから明後日と返事しようと思う。良いな。」 先程の喜びとは打って変わり、一方的に主水(もんど)は告げるとそのまま部屋を出て行った。思わずすがるように兄の顔を見た茉莉に宗太郎は冷たく言い放った。 「今回ばかりはそなたの味方はできぬ。お前のせいで儂はとんだとばっちりを受けた。」 父主水(もんど)の後に続き宗太郎が出て行くと、茉莉は先刻の元気はどこへやら、布団に突っ伏して泣き出してしまった。その様子を別室で聞いていた稲がすぐその傍に駆け寄った。 「お嬢様、しっかりして下さいませ!一体どうなさったのですか。お見合いの話はとうの昔から決まっていた事ではありませぬか。新之介様とのことがはっきりした今、何を迷っておられるのです?――― さぁ、ばあやに全部話して御覧なさいませ。きっと悪いようにはいたしませんから。」 諭すような言い方に心を開く気になったのか、茉莉は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、ぽつりぽつりと話し出した。
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