茉莉の食欲は幼少の頃から面倒を見てきた稲でさえも目を見張るものがあった。その食欲ならば大丈夫だろうと、稲は今までのことを聞いてみることにした。 「え?なに?どうかしたの?」 「富良様からのお文にはどのような事がしたためてあったのですか?」 「なぜそのようなことを聞くの?」 「直様も私もお嬢様の病をどうすれば治せるか、ずっと思案してまいりました。どんなお薬を差し上げても全く効き目がなかったからです。ところが富良様からの文をお読みになった途端このように元気になられて。私達の苦労は一体何だのかと・・・」 その言葉を裏打ちするように小袖を濡らす稲。 「ごめんなさい、ばあや。でもこの文を見せるわけにはいかないの。だってこれはわたくしにとって大事な文・・・・もう2人に心配をかけることはしないから許して下さいな。ね?」 愛らしい唇で『許して』と言われると、稲にしてみれば赤子の頃から育てた、いわばわが子も同然の茉莉。年のせいか稲は以前のような気の強い乳母ではなくなってしまったようだ。その後ホウッと大きなため息をついた。 「――――― 仕方ありませんね。確かにお嬢様に来たお文を私が読んでも詮(せん)無い事。これ以上聞きますまい。なれど元気になられたことは旦那様と若様に申し上げても宜しゅうございますね?」 茉莉の言葉につい許してしまった稲も、忠義だけは忘れていない。それには茉莉も反対せず静かに頷いた。
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