静馬の手紙の内容を掻い摘んで直に話すと、彼は茉莉の状態次第ですぐ出立しようと言い出した。それほどまでに直の心中は逼迫(ひっぱく)していたのかと、今更ながら驚く数馬だった。 「それにしても宗太郎殿は江戸の人、隼人殿は紀伊の人。この2人の接点はどこにあるのです?」 「はい。昔、九頭竜家の江戸屋敷は日下部家の近くに位置しており、隼人殿は御生母様と江戸におられたのです。2人が知り合ったきっかけは、宗太郎殿が九頭竜家の柿を取ろうとして咎められ、九頭竜家の家臣に仕置きになりそうになったところを隼人殿に助けられたのです。それが縁で仲良くなられたと聞いております。お互い子供で近隣に友達がいなかったという境遇が惹き合ったのでしょうか、大名と旗本という身分の差は、幼い2人にとっては何の障害にもならなかったのでございましょう。以後、隼人殿が紀伊に帰国したのちも文のやり取りをしていたそうです。ですから隼人殿が漂流していた数年間は宗太郎殿もその安否を気遣っていらしたようです。そこに今回の話ですから名状し難い想いがあるのでしょう。」 「そうだったのか。縁とは不思議なものようのぉ。・・・ところで茉莉殿の容態はいかがです?直(すなお)殿の診(み)たてではいつ出立できますか?」 「熱は下がっていますから・・・早ければ明後日にでも大丈夫かと。」 「明後日?!では馬車を準備いたそう。あなたもご同道していただけるかな?」 「もちろんです。」 「それでは某(それがし)馬の手配をいたすゆえ、これにてご免。」 そう言って数馬は直(すなお)の部屋を出た。直もまた宿の清算を頼みに帳場へ赴いた。
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