翌朝。数馬はどこからともなく戻って来て、無言のまま旅支度を始めた。茉莉には用が済んだから帰る、とだけ伝えた。元より茉莉もそのつもりであったから朝餉(あさげ)が済むと休む間もなく『つるや』を後にした。
朝から曇っていた空が昼を境にとうとう泣き出してしまった。初め、笠を被ってしのげる程度だったのが段々ひどくなり、雨宿りしなければならないほどになった。運よく道から少しそれた所に祠(ほこら)があったため、2人はそこに逃げ込んだ。雨はしのげたものの春とはいえ水に濡れた身体はどんどん熱を奪っていく。茉莉の身体は寒さでガタガタ震えだした。しかし暖を取るものは一切ない。数馬は黙って茉莉の身体を抱き寄せた。ハッと抵抗したものの力では数馬にかなわない。そのまま身を任せはしたが一向に震えは治まらない。それどころか熱も出てきたようだ。ちょっと躊躇(ちゅうちょ)したが、数馬は突然茉莉の帯を解き始めた。熱でぼうっとなっていた茉莉だったが、これには必死で抵抗した。 「あんたのためだ!静かにしないと手間がかかる!何を心配しているのかわからんが、悪さをしようなんて思っちゃいないから安心しなさい!」 あっという間に茉莉は腰巻1本にさせられた。数馬はサッと自分の着物を脱ぐとそれで茉莉の身体をくるみ、自分の身体に引き寄せた。 「どうだ。暖かいだろう?しばらくこうしていて雨が上がったら早目に宿を取ろう。たぶん粂がちゃんとやってくれている。」 数馬の優しい言葉に力なく頷くと、茉莉はそのまま深い眠りに落ちた。昨夜の寝不足が祟ったのか、数馬もまたつられるようにそのまま寝入ってしまった。
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