その夜。数馬は夕餉(ゆうげ)の席で差し向かいになった茉莉を新たな想いで眺めた。 (この娘は自分のものになる運命にあったのだ。昨日何故か新之介と2人きりにしたくないと思ったのはあれは嫉妬だったんだ。) その視線を感じたのか茉莉の顔が問いたそうな表情になった。 「あ・いや。何でもない。・・・・ところで新之介との話はどうなったのです?」 考えていたこととは違う言葉が出た。それもずっと気になっていたことには違いないが。すると茉莉は膳をずらし、座りなおして三つ指をついた。 「改めて風太郎様にお礼を申し上げます。あなた様にはひとかたならぬお世話を戴きました。新之介様の存念を伺い、あの方はこの地に骨を埋める覚悟でおられるとわかりました。」 「左様か。・・・それであなたはどうなさる?」 「わたくしは・・・家に戻ります。」 「それでご家族の勧める縁談を受けるのか?」 「――― 仕方ありませぬ。武家の娘はそういう星の下に生まれているのですから。」 「相手がどんな男でもですか?」 数馬は段々イライラしてきた。そんな気持ちで自分の元に来て欲しくなかったからだ。来るからには納得した上で嫁して欲しい。そう願っていた。 「風太郎様?どうなされたのです?」 「そなたはそれでいいのか!自分の気持ちというものはないのか!?」 「わ・わたくしは・・・わたくしにも望みはありました。ですがそのようなことはもうどうでも良いのです。どうせ婚期の送れた娘など貰ってくれる方などありませぬゆえ。」 「あなたは幾つになられる?」 「19でございます。」 「ふむ。俺は28だ。しかしまだ妻帯しておらぬ。」 「殿方には婚期はありませぬ。ですが女子(おなご)の19といえば縁談すら遠くなります。」 「そう言ってしまえば身も蓋もないが。とにかくそのような考えは早く改めることだ。」 「いいえ。わたくしの人生はもう終わったも同然・・・」 「馬鹿なことを言うでない!!」 数馬はとうとう耐え切れなくなり怒って部屋を出て行ってしまった。結局その夜は2人ともそれぞれの想いを胸に別々の場所で寝付けない夜を過ごした。
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