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作品名:夢・幻(うたかた)の夢 作者:Shima

第3回   老婆
  歩く道すがら数馬は茉莉の事を聞き出そうとした。しかしなかなか口の堅い娘で、手を代え品を変え質問攻めにして結局わかったことといえば、茉莉には兄が1人いること、それが自慢に兄であるという程度だった。依然として誰を捜しに行くのかということは話さない。そうこうしているうちに目的の家に到着してしまった。

  裏木戸を叩くと下男が出て来た。彼はそこに立っているのが茉莉だとわかると、転びそうになりながら家の中へ入って行った。すると間もなく品のいい老婆が慌てて出て来た。
「まぁお嬢様!!どうしたのです!このような夜更けに!さ・さ、中に。で、お供は?」
木戸からキョロキョロ見回すと、見た事のない、しかもとてつもない優男(やさおとこ)が着流しに大小2本差して立っていた。その老婆は胡散臭そうに数馬を品定めし、懐中から金らしきものを取り出すと、何も言わず彼の前に放り投げた。数馬は娘を送り届けた謝礼を待っていたのだと勘違いされムッとしたものの、そんなことは噫(おくび)にも出さず人懐こい顔で声をかけた。
「あんたがここのお人だね?某(それがし)は・・」
来る途中、茉莉のことを聞き出すのに精一杯で自分の事を話すのをすっかり忘れていた事に気付いたが、やはり本名を名乗るわけにもいかないので咄嗟に、
「富良(ふら)風太郎(ふうたろう)と申す者。決して怪しい者ではござらん。」
怪しい者が自ら怪しいと名乗るわけもないのだがと笑いを堪(こら)えつつ、至って顔は真面目くさって言った。
「ふらふうたろう?−−−聞いたことのないお名前ですね。まぁお屋敷を明かせぬか、もしくはご浪人でしょうが、いずれにしても本名ではないでしょう。それでその富良殿がなにゆえお嬢様とご一緒なのです?」
老婆の顔は厳しいままだ。そこで数馬は木戸口に立ったままということもあり、事のあらましを掻い摘んで話した。その話にいちいち驚いていた老婆は、話が終わると急に優しくなり2人を急ぎ家の中に招き入れた。


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