「して・・会えるのか、その人物に?」 歩きながら数馬は口を開いた。 「抜かりはありやせん。そのお人はこれから為吉ってぇ百姓の家に行く事になってるってんでそこで待たせてもらう事になってやす。為吉には旦那のことは天宮さんの友達だと言ってありやすから、そのつもりでいておくんなさい。あ、こっちです。」 粂八に案内されながら数馬は田んぼの畦道(あぜみち)のような道を通り抜け、あばら家のような家の前に立った。 「ごめんよ。」 気安く声をかけて中に入る粂八の後に続いて入って行った数馬の顔を見た為吉夫婦は、驚いて腰を抜かしてしまった。役者絵から抜け出してきたような男が入ってきたからだった。 「あ・あああ。」 言葉も出ない。 「旦那。旦那も罪なお人だねぇ。あっしゃぁもう慣れっこになっているから何とも思わねぇんだが、初めて旦那を見る者にとっちゃぁ天と地がひっくり返るような心持に違ぇねえ。」 「粂。こればっかりは俺の責任じゃねぇ。・・・・ところで為吉といったな。俺ァ天宮さんの江戸時代の友達なんだが、天宮さんは本当にこれからここに来るんだな?」 「あ・ああ。」 言葉の出ない2人はただ頷くばかり。 「ちっと待たせて貰うぜ。」 そう言うと大小を脇に置き、上がり框(かまち)の腰掛た。身振りで上がれという為吉夫婦に、天宮が来たならすぐ外に出るからとそのまま世間話を始めた。一揆の事とか米の出来具合とかの話は一切せず、この機械はどう使うんだ?とか、これは何だ?とか、家の中にあるものを話題にするので為吉夫婦もすぐ打ち解けてしまった。粂八は数馬のそんな気さくな所がむしょうに好きだった。鏑木家の次期当主になられるお方なのに気取ったところがこれっぱかしもねぇ。俺ァ旦那がいらねぇと言っても死ぬまでくっついているぞ。と変な感傷に浸っていると、 「おはよう。」 の声と共に1人の男が入ってきた。 「先生!おはようごぜぇます。あの・・・・先生の・・」 と為吉が言い終わらないうちに数馬が2人の間に立ちはだかり、「久しいのぉ。」と言いながらその男を連れて外に出た。
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