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作品名:夢・幻(うたかた)の夢 作者:Shima

第15回   川越宿
  2人と1人。謂わずと知れた数馬、茉莉、少し離れて粂八が予定より少し遅れて川越に着いたのは暮れ六つの頃だった。さすが江戸から離れた田舎で、胡散臭いのやら浪人やらがそんじょそこらでたむろしていた。3人が宿場町にかかろうとしたとき、2〜3人の百姓が血相を変えて数馬たちの脇を駆け抜けていった。すかさず粂八がその後を追う。いつものことながら粂八の行動力には感心させられる。きっと何らかの情報をもたらしてくれるに違いないと期待し、一馬は今夜の宿を探すことに専念することにした。
  運よく2件目で人の良さそうな主人のやっている宿に2人は草鞋を脱いだ。昨日、今日と歩き通しだったので茉莉は足が痛そうだった。どれ、揉んでやろうと数馬は着物の上から丁寧に揉み解(ほぐ)してやった。さすがに素足に触ることは憚(はばか)られたからだ。男といえば父と兄しか知らない茉莉にとって数馬の行動がいちいち目新しく感動的であった。増してすこぶる美男子なのだ。天は二物を与えないとか、色男金と力はなかりけり。などという言葉はこの風太郎という不思議な魅力を持つ男には存在しないように思えた。
数馬の按摩は上手くツボを押さえていたので茉莉の足はすっかり良くなり、夕餉(ゆうげ)が終わり風呂から上がった頃には痛みは全くといっていいほどなくなっていた。昨晩と同じく布団を離して仕切りを作ってやると、「お休みなさいませ。」と茉莉のほうが先にスヤスヤと寝てしまった。ようやく信用されたか、とホッとため息をつくと、障子の向こうに人影が見えた。
「粂か、入れ。」
茉莉を起こさないように声の調子を落とす。
「へい。」
音もなく障子が開き、すっと粂八が滑り込んできた。


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