大の男達が本気で馬を駆けさせたのだから、瞬く間に宗太郎を隊長とする茉莉捜索隊10名は日暮里にある稲の庵に着いた。 予想はしていたものの、徒党を組んで雪崩込むように入ってきた男達を見た稲は、腰を抜かしそうになった。だが宗太郎と茉莉を育て上げた経験から動揺は表に出さず、堂々と宗太郎と向かい合った。 「若様。これは一体どうしたことでございます?」 「い・稲!茉莉を匿っているだろう!すぐこれへ出せ!」 自分を育てた、云わば母親のような存在の稲に睨まれ宗太郎は威圧するように声を荒げた。 「若様。何を仰っているのかこの婆(ばば)には分りませぬ。お嬢様がどうなさったというのです?」 「姿が見えぬのだ。かどわかしに遭ったとも思えぬ節があるゆえ、もしかしたらと思いここに参ったのだが・・・」 シラを切っているとも知らず宗太郎は途端に元気がなくなった。 「それではお嬢様がご自分で外に出られたと仰るのですね?で、供の者は?」 「それが誰も知らぬのだ。――― ただここへ来るまでの道を茉莉が覚えているとも思えん。きっと誰かが手引きをしたとしか考えられぬ。のぉ稲。そなた何か心当たりがないか?縁談も進んでおるにお奉行に何と申し開きすれば良いか・・・」 「若様。その件につき、少々お尋ねしたい事がございます。」 稲は居住まいを正し、宗太郎にも落ち着くよう言った。供の者には労(ねぎら)いの意味も込め、熱い酒を振舞った。
|
|