ジュディー達がアーサーの部屋で思いもよらぬ話を聞いていた頃、ケインは昨夜のジャスミンとの会話をもう一度考えてみようとその高台(ジャスミンによればエローラの丘と云うそうだ)に行った。何者かの侵入によって中断されたジャスミンの話。その何者かが言っていたジャスミン、交換条件、途切れ途切れの会話・・・そういった事が頭から離れずあのままジャスミンと別れてしまったことが悔やまれ、ベッドに横になったものの昨夜は殆ど眠れなかった。もしかするとジャスミンも同じ気持ちであり、この丘に来るのではないか?そして昨夜の話の続きをしてくれるのではないか?という期待もあった。思わずキスをしてしまったのは運命なのか、それとも月明かりのせい・・・つまりムーンライトマジックなのか、確かめたい気持ちもあった。
しかしひょっこり現れたのはジャスミンではなくジャックであった。突然の彼の出現に驚いたケインだったが、彼以上にジャックはギョッとしたように立ち止まった。 「ケ・ケイン?何故ここに?」 「何故って夜はいつもここに来てたんだけれど、日中はどんな所なのかと思って来てみたんだ。」 咄嗟に嘘をついた。 「そ・そうか。」 「君こそこんなに朝早く何をしているんだ?」 「俺?・・・・君に見つかったのも何かの縁だな。仕方ない・・・・いいか、ケイン。これから話す事は教授達に内緒にしていれくれ。絶対に!!」 そう言ったジャックの両目が急にギラギラしてきた。それに圧倒されケインは思わず頷いた。 「・・・・俺達はイギリスを立つ前、ある計画を立てていた。俺達というより教授が、と言った方がいいかもしれない。実は今から18年前、イギリス人がアジャンターという所で石窟寺院を発見したんだ。」 と、アーサーがジュディー達に話した内容をジャックは説明した。 「・・・・・それを探す為のインド行きでもあったんだ。ただ君の参加を何故教授が言ってきたのかは全くの謎なんだが。たとえ天文学的見地から2つの月の存在を証明する。といっても他の生徒でも良かったはず。なのに何故か教授は君を、つまりケイン・スタンフォードを!と指名してきた。ところがいざインドに来てみるとあんな悲惨な事が起きてしまった。教授もショックを受けてこのまま帰国しようか、という気持ちになったようだった。けれど君の話で俄然やる気が戻ってきたんだ。」 「僕の話?」 「ああ。君の説明からするとこの辺りはデカン高原の一部だそうじゃないか。教授はそこに目を付けたのさ。デカン地方の中なら可能性はある、とね。そこでこの谷の住人に手伝ってもらって、まァ殆ど道案内と言った方がいいかな。彼等とあちこち探したんだ。リューさんも初めのうちは昔の経験を生かして調査に加わっていたんだけれど、仕事に関する何かがあったということで途中から離脱してしまった。だから実質俺とジュディーとスージーの3人でやっているというわけさ。もっとも彼女達には詳しい話をしていないから一体何を探しているのか五里霧中の状態だと思う。それにあの2人はまだ実践的な作業が豊富じゃない。つまり机上の空論の域を出ていない。そこで教授や彼女達に内緒で俺は1人調査しようと考えた。だから一昨日からこうして昼夜問わず動き回っているんだ。」 「昼夜問わず?じゃあ昨夜も歩き回っていたという事かい?」 もしかすると昨夜(ゆうべ)の人物のうち、1人はジャックだったのかもしれない。そんな疑念が頭の隅をよぎった。 「昨夜(ゆうべ)?ああ勿論さ。ここから5キロ程離れた所で天気も良かったから野宿してたんだ。遠くの方で獣の鳴き声がしたが、まさかあのトラ達じゃないだろうな、なんて考えてたら知らずに朝になってた。−−−−−いいかケイン。発掘には単独行動は禁じられているんだ。だから俺がこうして動いていることは絶対黙っていてくれ。頼むよ!」 ジャックの答えにホッとしながらも、じゃああれは一体誰だったんだろう?その疑惑が再びケインの心に頭をもたげてきた。心ここにあらずといった状態でケインは「分かった。」とだけ答えた。
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