ケイン達が幸福の絶頂にいる頃。インドを取り巻くアジア情勢は最悪のものになっていた。 清国皇帝、宣宗が発令したアヘン輸入禁止策は、イギリスとの間に二年にも及ぶ戦争を引き起こした。いわゆるアヘン戦争である。イギリス軍の総指揮官エリオットは廣東港(こうとうこう)を起点に次々と清国軍を打破し、総指揮官、林則徐(りんそくじょ)を追い込んだ。更に、戦に破れた皇帝から植民地としていくつかの領土を差し出させた。そのエリオットの指揮の下、獅子奮迅の活躍をしたのが副官のテルミドールという男だった。 彼は人々からテリーという愛称で呼ばれイギリス軍からは尊敬されていたが、反面、清国軍からは鬼のように恐れられていた。ある時突然頭角を現し、副官にまで上り詰めた彼は前身を一切公表しない摩訶不思議な人物であった。それにも関わらずその統率力と戦術は素晴らしかった。彼はまた1人のインド人の部下を常に側においていた。2人は細かい作戦を練り、清国軍に壊滅的な打撃を与えた。それ以降皇帝は何故か戦意を喪失し、イギリス軍に領土を取られ続けていった。 その人物こそ、芥子の谷から忽然と姿を消したリュー・テリーと前芥子の谷の大臣、ヤコブの姿であることは誰も知らない。しかしそれが明らかになったところで今のテリー、いやテルミドール達にとって何の損害があろう。それを知っているのは読者のあなたと作者の私だけなのであるから・・・
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