王の具合が悪くなってケインの予定は総崩れになった。一度本国に帰国し、大学を卒業してからまた再びこの地を訪れようと考えていた。しかしこうなってからはジャスミン1人残していくわけにはいかなくなってしまったのだ。確かにカシミールがいれば少しの間政事は何とかなるかもしれない。問題は王という存在だ。口に出してこそ言わないが、カシミールも不安を隠しきれない様子だ。ジャスミンに至っては全面的にケインに頼りきっている。あのプレーナムでさえ些細なことでケインに伺いを立てているのだ。本当に困った。こんなとき相談する相手がいれば何とか解決策も見出せるのに・・・ケインの心はプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
何の進展もないまま1週間が過ぎた。谷の重臣たちは益々ケインに頼ってきていた。王が発表したこともあり既にケインへの重臣たちの信頼度は100%を超えていた。ケインの発する言葉はそのまま直後実行されていたしそれがことごとく的を得ていたからだ。 執務室でその日の陳情書に目を通していたケインにカシミールが用向きを伝えに来た。 「ケイン様。王がお呼びでございます。」 「王が? 良くなったのか!」 「いいえ、そうではありません。ただケイン様をお呼びしろとのご命令です。」 「わかった。すぐ行く。」 一縷の望みをかけたが無駄だとわかるとケインはため息をつきながら王の寝室に向かった。
「陛下。ご機嫌麗しく・・・・」 礼儀に則ってお辞儀をするケインをジャスミンが素早くベッド脇に呼び寄せた。王が何やら話したいらしい。震える手でケインの両腕を掴み耳元で殆ど聞こえない声で話す王。ジャスミンの通訳で何とか要約をつかむ事が出来た。つまりはこうだ。自分はもう役に立たないからケインに今すぐこの谷の王になって欲しい。そして民衆のための政治を行なって欲しい。 重点はその2つだった。王の願いにあいまいな返事をしてケインは寝室をあとにした。すぐ返答できる問題ではなかったからだ。だが早急に答えを出さなければならない事は彼が一番良く知っていた。 執務室に戻ったケインを待っていたものは大量に重なった陳情書だった。 それを見た彼の心は決まった。いや既に決まっていたものを再確認させられたのだった。
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