20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:芥子の花咲く 作者:Shima

第45回   真実(3)
  「更に5年。ジェイムズ達がここを去ったのを機に兼ねてより私が考えていた計画を妃に話した。別の男の子種を貰って跡継ぎを産んで欲しいと。妃は驚いたが後継者がいないのではこの谷は滅亡してしまう。それを盾に私は妃を説得した。相手の男はデリルが選び、何度かこの谷にやって来た。私はそれを断腸の思いで見ているしかなかったのだ。
  それから数ヶ月が経った。妃に懐妊の兆候が現れると間もなくその男は姿を見せなくなった。そして生まれたのがジャスミンなのじゃ。」
王は淡々と話しを続けた。
「それでその相手の男というのは。」
「・・・・現、清国皇帝、宣宗(せんそう)。という話じゃ。・・・・・あの頃はまだ私より地位の定まらぬ男であったが、今から8年前、皇帝の座に就いたと聞いた。妃から宣宗の事を聞いたことはなかったが、デリルの話によると、血気盛んな若者であったが、近習の者達にはとても優しく、勿論妃に対しても物腰は柔らかであったということだった。ジャスミンの名も清国の呼び名は茉莉花(マリファ)という、それは美しい花から取ったものだ。あの子は宣宗と我が妃の良いところだけを受け継いでいると思う。どんな手段であれ、私に子が授かったのだ。一生大事にしようとこれまで慈しんできた。だが年月を追う毎にオピウムの産んだ子の消息を知りたくなった。私にとって唯一血の繋がった者だったから。できれば私の後継者に、と考えるようになってしまった。私はデリルに命じ、そなたの行方を捜した。苦労の甲斐あってイギリスに住んでいるということがわかった。バーナードの所在はわかっていたから、彼を通じそなたがここに来たくなるように仕向けて貰ったのじゃ。ああ、勘違いされては困るが、だからと言ってジャスミンに対する態度が変わる、というものではない。あの子は私の娘だ。だが息子と娘で自ずと周囲の期待するものが異なる。娘はやはり女なのだ。そなたをこの数ヶ月見てきてその思いは強くなるばかりだった。・・・ケイン。あの子の素性は決して怪しいものではない。親子として名乗り合うことは決してないが、あの子は生まれながらの皇女なのだ。分ってくれるな?」
じっとケインの目を見つめる王の目から幾筋もの涙が流れていた。
「はい。」
同じようにケインの目からも涙が流れた。
「では1つ聞くが、今の話を聞いて、ジャスミンに対する気持ちに変わりはあるか?」
「・・・陛下。僕が真実を知りたいと言ったのはそんなことではありません。彼女に対する気持ちには些(いささ)かも変わるものではありませんし、聞いたことによってこの先ずっと彼女を守るのは自分しかいない、と痛切に感じました。・・・・陛下、改めてお願いいたします。僕を陛下の息子として、又、ジャスミンの夫としてこの谷に一員に加えて下さい。」
「おおおおお!そうか!嬉しいぞ。ケイン。私は今までこんなに嬉しいと思ったことはない!そうじゃ!早速婚礼の支度じゃ!」
「待って下さい!その前に僕はしなければならないことがあります!」
ケインは再び居住まいを正した。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 8449