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作品名:芥子の花咲く 作者:Shima

第39回   告白
  地下牢に軟禁されていたヤコブは、王の決定をカシミールから聞かされると驚きの表情を見せた。断罪は免れぬ。と覚悟していたのに国外追放だとは・・・王の心にどんな心境の変化があったのだろうか?その問いにカシミールはケインの影響だろう。と答えた。当初、王の下した決定は、テリーによって齎らされた金品は没収の上、谷の花の復興に努めるなら罪には問わず。というものだった。それはケインの提案であり、それを王が推奨したものであった。それを聞くとヤコブはしばらく黙って牢の土壁をじっと見つめていたが、突然ケインと話がしたい、と言い出した。それは許されぬ、即刻追放しろ、と王から命じられている。とカシミールが冷たく言い放つと、何としても話さねばならない!と頑として譲らず、そのまま瞑想にふけってしまった。
仕方なくそのことを王の部屋にいたケインに伝えると、危ないから止めて、というジャスミンの言葉も聞かずケインは地下牢に足を運んだ。

  ヤコブはケインが姿を見せるなり2人きりにしてくれと言った。ケインが目で合図すると兵士達も自分達の持ち場を離れた。
  2人になるとヤコブは目を開き、じっとケインの顔を見つめた。しばらくするとその両目から涙がこぼれ落ちた。どうしたのだろうか、とその訳を尋ねようと一歩前に踏み出すと、途端にヤコブは声を押し殺すように泣き出してしまった。両手、両足を鎖で繋がれている為、顔を覆うこともできず、ただ大粒の涙が頬を伝って流れ続ける。仕方なくケインはヤコブの気持ちが落ち着くまでじっと待つことにした。
  どの位時間が経ったのか地下牢の中では分らなかったが、兵士達が様子を窺いに交替で何度か姿を現したのを見ると、かなりの時間が経ったのだろうと推測された。それを察したのかどうか、ようやくヤコブは顔を上げ、ゆっくりと話し出した。
「・・・・・ケイン。私はお前が生まれるよりも前に姉と共にこの地にやって来た。姉はムファド皇子、今の王の妃として、私は護衛も兼ね、臣下の一員として。あの頃は婚礼の日になるまでお互いの顔さえも知らなかった。私は何度か前王や皇子に事前に会っていたが、家族達と会ったのは婚礼の当日が初めてだった。その時不思議なアザを持った少女、すなわちそなたの母、オピウムにあろうことか一目で虜になってしまった。その後義兄となった皇子や姉にオピウムを私の妻に欲しいと願い出た。姉夫婦は乗り気だったのだが、前王と肝心のオピウムが承知しない。そうこうしているうちにあの2人、ジェイムズとバーナードがやって来た。ジェイムズが言葉巧みに誘ったんだろう、オピウムは奴と一緒になると言い出した。すると手の平を返したように皇子も賛成しだした。相変わらず王は反対していたが、オピウム可愛さの余り、とうとう承諾してしまった。それから五年。お前が生まれ、2人は一層幸せになった。ところが原因不明の病が発生し、数多くの村人が死んだ。神がやっと私に力を貸してくれた、と思った。時を見計らい、よそ者がいるからこんなことが起こるのだ。とデボンに噂を流させジェイムズ親子を追い詰めこの地から追い払った。今度こそ!と傷心のオピウムを慰め、己が妻にと試みた。結果・・・それまで以上に彼女から疎まれるようになってしまった。それからというものオピウムは他家へは嫁がず、一生1人のまま・・・そしてお前がここに来る前に死んでしまった。生きる糧を無くした私は、ジャスミンにそれを求めた。だがそれも叶わぬと知ると、どうしても王になりたいと願うようになった。どんな手を使っても王にならねば私の生きる意味がなくなる!その一心で一度は妻に、と願ったジャスミンをさらったのもその気持ちからだった。しかしお前のアザを見た瞬間、心の中に隙が出来て墓穴を掘ってしまった。”汝、2つの月が出づる時、全ての民は救われる”お前が来るまでのこの谷は一見平穏だった。だが私がいるせいでどれだけ現王が苦しんでいたかわからぬ。2つの月の意味はそういうことだったのだろう。結局私の人生はオピウムに始まりオピウムで終わる。ということなんだろうか・・・・フフフフ・・ハハハハ・・・」
天井を仰ぎ、高笑いするヤコブの声が空しく響いた。


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