アーサーの部屋では谷に来てからずっと彼の世話をしていた侍女達が、オイオイ泣きながら死後の世界へ旅立つ亡骸を花と綺麗な衣装で飾っていた。しかしそれらを見てもスージーの表情には何の変化もない。ケインにははっきりとアーサーの死が感じられたというのに。
「まぁ!あなた方は一体何をしているの? 先生・・・アラ?先生、こんなにベッドを綺麗にしてもらって。・・・いやだわ、みんな。どうしたの?先生寝てるだけじゃない。まるで死んだ人みたいなことしないでよ。」 「スージー、君・・・もしかしたら記憶がないのか?」 先程からの彼女の言動は記憶の消失としか説明の仕様がないと思えた。 「記憶?何を言うのケイン。私はあなたの事もジャックの事もこの谷へ来た事も覚えているのよ。それを記憶がないなんて、失礼にもほどがあるわ。」 「じゃあ聞くけど。さっき君はずっと教授と一緒だったと言ったね。その教授が亡くなったのに何故その理由を、いや、死の事実を知らないんだ?」 「だからぁ!先生は死んでなんかいないのよ!ホラ!!」 スージーはアーサーの顔に触れた。ヒャッとした触感に驚き手を引込めたものの。今度は両手でその身体を確認してみる。冷感と同時に異様な身体の強張りにようやくおかしいと気付いた。 「ねぇケイン。一体どうしたの?先生冷たいし何だか硬いわ。」 「スージー。たぶん君は教授の死にショックを受け一時的に記憶を無くしたんだよ。・・・・・いいかい、よく聞くんだ。教授は亡くなったんだ。死んだんだよ。おそらくその理由を知っているのは君とジュディーしかいないと思う。 ジュディーは何処にいるんだい?」 「ジュディー?・・・ジュ・・・ヒィィィィ!!」 スージーは突然何を思い出したのか、天を貫くような悲鳴を上げ、ものすごい勢いで暴れだした。咄嗟のことで一瞬たじろいだケインもすぐ体制を建て直し、その身体を押さえ込もうとした。だが、狂人のような力で暴れ回るスージーに手も足も出ないような有様だ。 「スージー!いい加減にしろ!!」 大喝するケイン。その声にハッと我に返り、ようやく記憶が戻ったのか次にケインの胸に飛び込み大きな声で泣き始めた。理由はまだわからなかったが、ケインはスージーをそのまま受け止めることで彼女の気持ちが落ち着くのを待った。
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