「オ・オピウム・・・」 一瞬の虚を尽きケインの蹴りがヤコブの持っていた拳銃を吹き飛ばした。間一髪危機を逃れたミンミンは素早くプレーナムの側に駆け寄った。 油断し、拳銃を取られ人質を逃がしたヤコブは、短剣でケインに襲い掛かった。それをみたデボンも息を吹き返したようにジャックの腕を払い応戦に出た。 ケインは父ジェイムズが旅の途中で学んだ拳法を幼少の頃から習っていたので、武器を持っていなくても難なくその反撃をかわす事が出来たのだが、ジャックは普通の幼少時代を過ごしてきたため捨て身のデボンに押さえ込まれてしまった。それを見たカシミールはジャックの加勢に加わり、今度はケインとヤコブ、カシミールとデボンという主従それぞれ一騎打ちとなった。ほぼ中央でケインはヤコブの攻撃を左右によけながらかわしていたが、やけになっているヤコブの剣は、隙のないケインにとっても十分脅威に値した。 「ハッ!」「ハッ!」 1つ1つの技に気合が入る。 「ハアハア・・」 目蔵めっぽう突きを出していたヤコブの息が荒くなってきた。頃合を見計らってとどめの蹴りをヤコブの大腿部に喰らわせた。 「ウッ!」 とうとうヤコブも力尽き、王の兵士に捕らえられた。
カシミールとデボンは小さい頃からの因縁があったらしく、怒鳴りあいながら殴り合っていた。 「お前があの時、王妃様から頂いたお菓子を多く取ったんだ!」 とか、 「お前がハヌマーンごっこをしていた時ズルしたんだ!」 などと辻褄の合わない事を口走っていた。 ケインは彼等をそのままにしてヤコブと同じ目の高さになるように膝をついた。 「大臣。いえ、伯父上。たとえずっと会った事がなくとも今、僕はそう思っています。さっき母の名を口にしましたね。あれは僕の額を見たからではありませんか?僕の母、オピウムも同じ形のアザがあった。そうですね?これを見て母を思い出したのでしょう。僕の場合、何かで気持ちが高ぶった時にしか現れないので今まで気付かれなかったんだと思います。それで隙が出たのでしょう?」 「ヤコブ。そちを騙すような真似をしたのは全て私の命令だ。恨むなら私を恨め。だがそなたのしたことはこの谷始まって以来の大罪ぞ。その事はわかっておろうな。処罰は詮議の上決定する。 連れて行け!」 王の言葉は威厳に満ちていた。屈強な2人の兵士がヤコブの両脇をしっかりと押さえ、前後左右を数人の兵士が取り囲むように並ぶと、そろそろ白み始めた外へ出て行った。
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