ケインは意気消沈しているジャックにテリーがヤコブと共に何をしようとしていたのか探ろうと勇気付け、真っ暗な外へ出た。カシミールに自分の考えを伝えたものの、上手くいくかどうか不安もあったが、やってみないことにはわからない。人知れず洞穴に向かわなければならないのだ。しかし灯りなしでは一歩も前へ進めない程だ。するとグルグル・・・ケインの耳に聞き覚えのある音が聞こえてきた。 「スウォードお前か!お前がいればこんな闇も真昼のように進む事が出来る。スウォード、ジャスミンが捕らえられた洞穴(ほらあな)に行きたいんだ。僕とジャックを急いで連れて行ってくれ!」 ジャスミンを捜しにあの洞穴に行った時から何故か自分の言葉がスウォードには通じるのではないか?と思うようになっていた。人間の言葉を理解する野性のベンガルトラの存在など以前は考えられなかったのだが、今は確信して言える。少なくともスウォードだけは僕の言葉が解る・・・と。まるで乗って下さいとばかりにスウォードはケインに背を向けた。ジャックの前にも足音もさせず別のトラが近寄り、同じように背を向けた。 「ジャック、スウォード達に任せよう。」 言うが早いか、ケインはサッとその背に飛び乗った。脱兎の如く駆け出すスウォード。ジャックも負けじと目の前のトラに飛び乗った。
3日前。自分達の足で来た時は遠く感じたこの距離も、4本足の疾走ではあっという間だった。洞穴の入口で降りるとまたスッとスウォード達は視界から消えた。 カシミールが来ているはずなのだが一体どこにいるのだろう。だがむやみに扉を開けることは出来ない。奴らがいるかもしれないからだ。そんなケインの思惑を察したのか、暗闇の中からケインを呼ぶ声がした。カシミールだった。 「カシミールか?大丈夫なのか?」 「はい。まだ来ておりません。どうぞこちらへ。」 その声のする方へ向かっていくと、丁度洞穴の横にあたるところに小さな入口があった。それは大人が横になってやっと通れるくらいの細長いものだった。 中に入ると薄明かりの中、プレーナムともう1人の侍女がジャスミン達が縛られていた石柱に同じように縛られていた。 「これは一体どういうことだ!」 「ケイン様の指示通りにいたしました。」 「僕は人形を。と言った筈だ!大切な侍女にこんな危険な事をさせるわけにはいかない!すぐ彼女達を放すんだ!」 「いいえ!ケイン様。私達が是非に!とカシミールに頼んだのです!私もこのミンミンも姫のためなら命なんか惜しくありません!」 捲し立てる様にプレーナムが言えば、ミンミンと呼ばれた侍女も同調するように力強く頷いた。 「私は5歳の頃から宮殿に上がっております。姫様のお役に立てるなら命も厭(いと)いません!」 彼女もプレーナムに匹敵するほどの強い意志の持ち主のようだ。 「だからと言ってこんな危険な事をして本当に死んだらジャスミンはこれからどうすればいいんだ!彼女にとってはお前達だけが友達だろう! ダメだ!ダメだ!僕にはそんなことに同意できない!すぐここから出て行くんだ!」 「いいえ!もしこのまま何もせずここから出て行かなくてはならないなら・・・・」 プレーナムは一瞬の隙を突き、カシミールの腰から剣を奪い取った。 「これでミンミン共々ここで死にます!」 必死の形相にケイン達はどうすることもできなかった。 「・・・・お前達は・・・・ありがとう。そこまで・・・・わかった。 お前達の思うとおりにしよう。でも!危ないと思ったらすぐ助けを呼ぶんだ。いいね!」 ケインは仕方なく彼女達をそのままにして各々(おのおの)隠れられそうな場所に身を潜(ひそ)めた。あとは手筈通り、虫が飛んでくるのを待つばかりとなった。
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