(約束の時間まであと少しだ。そうすればこの谷は私のものになる。)逸(はや)る心を抑えきれず、口元が自然に綻(ほころ)んでくる。ヤコブはテリーが行方不明になったことも知らず、ソワソワと落ち着かない様子で宮殿の中を動き回っていた。(テリーは一度様子を見に行くと言っていた。その状況で知らせが早くなるかもしれない。そうだ!ここはじっと待っているべきなのだ。王たるもの、如何(いか)なる場合であっても臣下の者達に心の内を悟られてはならぬ。) 「ン?そち達はどこへ行くのだ? おお、洗い場か。精が出るのぉ!仕事に精を出せば良いことは必ずあるものだ。よしよし、行きなさい。」 下働き達にまで声を掛けるなど、今までなかったことまでしてしまう。それほどまでにこの3日間ヤコブの機嫌は良かった。(もし私が王になったら・・・・今以上にテリーを利用し、谷の花を売り、金儲けが出来る。富と権力を手に入れたものに文句を言える者などありはしない!)ヤコブの一念岩をも通す・・・そんな勢いである。
だが・・・・約束の3日目の夜になっても一向に連絡の者が来ない。おかしい。変だ。どうしても気持ちが落ち着かず自分の部屋を出ようとしたその時、待ちに待った連絡係の男がやってきた。ヤコブ腹心の部下、デボンである。 「オオ!待っておったぞ。して首尾は!」 「はい。テリー様の知らせにて大臣をお連れするように、と。」 「そうか!ならばすぐ参ろう!」 ヤコブは先に立って部屋を出た。行く先はあの洞穴だった。
|
|