隣の部屋でプレーナムに聞いたのか、カシミールはジャスミンの意識が戻った事を伝えても、 「宜しゅうございました。」 とたったひと言言っただけで、ケインを早く部屋の外に連れ出したそうな素振りを見せた。あ、うん、の呼吸でプレーナムがお薬を飲みましょうね、と入ってくる。仕方なくカシミールの後に付いて行くと廊下の隅でジャックが2人を待っていた。3人はそのまま滑るように次の間に入り鍵をかけた。ケインがジャスミンの回復を告げるとジャックは目に涙を浮かべ、良かった!良かった!を連発した。 「全てケイン様のお陰でございます。プレーナムも手を差し伸べる事すら出来なかったと申しておりました。」 少し経って感動が押し寄せてきたのか、カシミールの言葉も涙で震えていた。その顔はケインに殴られた痕(あと)が黒々と残ったままだ。事件が起きたせいですっかり忘れていたが、ケインはカシミールの顔を見たくない程怒っていた。だが今更彼を責めても仕方ないし、今回の件では神経が擦り減る程の苦労をした。それを思うと不思議なほど素直な気持ちで彼を受け入れることができた。 「カシミール、顔は大丈夫か?あの時は僕が悪かった。お前の立場も考えずつい手が出てしまった。すまない。」 「いいえ。ケイン様のお怒りはご尤もでございます。私が浅はかでございました。申し訳ございませんでした。」 そこでカシミールは一呼吸おいた。 「さて、お二人に重大な事をお知らせせねばなりません。・・・・実は、配下の者の調査により、今回、皇女誘拐の犯人がわかりました。」 「何だって?!」 「はい。それはヤコブ様、そしてお二人と行動を共になされていたテリー様・・・」 「え!テリーさんが?!」 ジャックが驚きの声を上げた。ケインは以前テリーの様子がおかしいと聞いていたため、左程驚きはしなかった。 「ま、まさか・・・」 ジャックの受けた衝撃はケインの目にもいかに大きいかがわかった。 「ジャック様。2人だけではありません。何と、ジュディー様が途中からテリー様と行動を共にするようになったのです。」 「ええ!!」 ジャックはヘナヘナと座り込んでしまった。ケインも二の句が告げないほどのショックを受けたのだが、辛うじてとどまることができた。 「カシミール。それは本当なのか?!」 「はい。間違いございません。事実、あの洞穴に皇女達の死を確認しようと舞い戻ったテリー様を追い詰め捕縛したのですが、一瞬の隙を突かれジャングルの奥に逃げられてしまいました。ですがあの中へ入って生きて帰った者はありませんのでおそらくテリー様はもう・・・」 テリーを取り逃がした事でカシミールはずっと自責の念に駆られていた。表情がそれを物語っている。元々ケインにカシミールを攻める気持ちはなかったのだが、何と言って慰めたらいいのかわからなかった。 「ジュディー様の事は教授とスージー様に様子がおかしいので見て来て貰いたい、と伝えましたので、お二方が何とかしてくださるでしょう。」 しかし彼等の誰一人、ジュディーが断崖から投身したことは知らなかった。 「そこで私達はこれからどうすべきか、ケイン様にご指示を仰ぎたいのでございます。」 ケインを見上げるカシミールの目は真剣そのものだ。 「指示?お前の主人は王だろう。僕はその役に相応しくない。」 「王より、自分にもしものことあらば、お前の判断で良いから主(あるじ)とするお方を選び、その方の指示を仰げ。と常々言われておりました。」 「それが僕だというのか?」 「御意。」 「そうか。それじゃ遠慮はしない。ちょっと耳を貸せ。」 ケインの顔にくっつくようにカシミールは自分の耳を寄せた。ケインの方が背が高いのでカシミールは背伸びをしなければならない。ケインも又、膝を折って何やらコソコソ・・・時折カシミールは頷きながら聞いていたが、突然パアッと表情が明るくなった。そして、 「ケイン様!あなた様はやはり素晴らしいお方です!」 感激の言葉を叫ぶように言うと、カシミールは素早く部屋を出て行った。
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