ジャスミンとプレーナムが消えてから3日経ってもその消息は杳(よう)として掴めなかった。ケインの心に苛立ちと藁(わら)にもすがる思いが錯綜(さくそう)していた。ジャスミン達がいなくなってからというもの、何度となくエローラの丘に登った。初めてジャスミンと心の琴線が触れたこの場所に来れば、何かしら手掛りが掴めそうな気がするからだった。しかしその都度絶望感に襲われた。
ところが今回ばかりは違っていた。信じられない事だが、まだ午前中だというのに、天空に一際(ひときわ)明るい星が現れたのだ。日差しも眩しいくらいだというのに・・・。南の空でこんなに明るい星といったらカノープスしかない。それにしても日中、星が見えるなんて!ひょっとしたらジャスミンの消息が判るかもしれない!そんな奇跡が起こっても不思議はない!そんな気がしてケインは逸(はや)る心を抑えながら走り出した。 丘を下ったところで彼の足が止まった。トラだ!1頭・・・いや、数頭のトラがじっと彼を見つめていた。真ん中にいるトラがグルグルと喉を鳴らし、じりじりと近付いてくる。万事休す!!ジャスミンを捜し出す前に自分が殺されてしまう!思わず目を瞑(つむ)った。・・・ しかし、何も起こらない。それどころかそのトラが彼の手をペロペロと舐め始めたのだ。ハッとして目を開けると、それに気付いたのかトラはゴロンと横になり、腹を上に向けた。撫でてくれ、とでも言っているように。それは獣にとって絶対服従を意味するのではないか。 「スウォード?」 スウォードは名前を呼ばれると猫のような鳴き声を出して甘えてきた。体は大きいが、ケインの前では子猫のようだ。 「スウォード。僕がわかるのか? そうか。撫でてやりたいが今はそれどころじゃないんだ。ジャスミンがいない。お前に言ったところでどうしようもないけれど、一緒に捜してくれないか?」 理解するはずもないと知りつつ、すがる思いでスウォードに語りかけた。するとケインの必死の思いが届いたのか、スウォードはブルッと体を震わせ立ち上がった。その目は甘えていた時とは異なり、既に猛獣のものになっていた。 ウォン!と一声上げると、まるでケインについて来い!と言わんばかりに服を引っ張った。
「危ない!!」 突然後ろから声がした。ジャックだった。彼はジャスミン達を捜すうち偶然この丘にやって来た。その時ケインがトラに囲まれているのを見て思わず叫んだのだった。ジャックの声に1頭のトラが身構えた。 「大丈夫だ。・・・・スウォード達は仲間だ。――― さぁ行こう!」 ケインの言葉にスウォードが走り出した。それに続くケインとジャック。時折スウォードは距離を測るように立ち止まる。2人の速度に合わせるかのように。
走り出して間もなく道は険しくなりジャングルに入った。普段なら絶対足を踏み入れてはならない所だ。そう兵士に教えてもらった。しかし今はジャングルの王、スウォードがいる。何も恐れる事はないのだ。 時間にすると7〜8分も経ったろうか、一段と木々が鬱蒼(うっそう)とした場所で不意にスウォードが立ち止まった。 「ど・どうしたんだ?」 ハアハアした息使いでケインが聞くと、スウォードはケインの袖を銜(くわ)え前に押し出した。そこには明らかに人の手によって隠されたと思われる石の扉があった。 「ここを開けろというのか?」 再び甘えるようにケインの手を舐めるスウォード。了解の意味で頷くとケインはその扉を押してみた。しかしびくともしない。ジャックの手を借りてようやく開けることができた。 むっとするような臭気。恐る恐る彼等は中に入って行った。中は薄暗く、奥に進む程、臭(にお)いがきつくなる。2人はいやな予感に襲われ先を急いだ。すると1本の石柱に身体を縛られ気を失っているジャスミンとプレーナムの姿が目に入った。 「ジャスミン!」「プレーナム!」 ケインはジャスミンの、ジャックはプレーナムの縄を急いで解(ほど)き、そのまま抱き上げて外に出た。
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