意外なカシミールの告白に怒り心頭に達したケインは、宮殿を飛び出しがむしゃらに走った。今までの事は全て仕組まれた事だったのか!カシミールはジャスミンは知らぬ事と言ったけれど今の彼にはその言葉を素直に信じる事ができなかった。自分のジャスミンに対する想いさえも。
どの位走ったのだろうか。ふと気がつくといつもの場所、エローラの丘に来ていた。どこをどう走ったのかさえ記憶になかった。とうとう力尽きてケインは倒れこんでしまった。 (一体自分は何だったのだろう?)その一言が頭の中を回転木馬のように駆け巡っていた。 やがてうっすら目を開けるとあたり一面芥子(けし)の花・・・こんなことがずっと昔もあったような気がする。・・・・自分がまだブマーと呼ばれていた頃・・・綺麗な女の人に叱られて一人泣きながら家を出た事があった。あの時は同じ位の男の子たちにいじめられ、その女の人に泣きながら話した後のことがった。何と言ったんだろう?・・・・よそ者?そうだ!僕はよそ者と言われあの女の人に興奮して喋ったんだ!その側には・・・父さん?するとその女の人は・・・母さん・・じゃ、あの女の人が僕の母?・・ブマー? 何故今僕はブマーと呼ばれていた頃と思ったんだろう?・・ブマーという人は星のことを勉強していた学者でその人の名前をつけた・・・僕に?・・・すると僕は・・・ケインの瞼(まぶた)の裏に今はっきりと両親の姿が映し出された。自分は、自分の母親はカシミールの言う通り、ムファド王の妹、オピウムだったのか?・・・小さい頃母親について父ジェイムズに問い質したことがあった。どうして僕にはママがいないのか?一体僕のママはどんな人だったのか?etc. だが父の答えは『お前の母は美しく、優しく、それでいて凛とした性格の人だった』とだけ。 しかし一度だけケインが片親だという理由でハイスクールの先生から厭味を言われた時、 『この子は由緒正しい家柄の子供です。』 と言い切ったのである。その時は父独特のはったりだろうと気にも留めなかったのだが、今となってみればそれは真実だったのだ。ともかくその当時は父の言葉でケインは救われたのだった。 自分は芥子の谷の王族の一員だった。しかも唯一現王ムファドの血の繋がりのある・・・。現実を直視しなければなるまい。しかしその為に何人もの人間が犠牲になった。その罪を一生背負っていくことが自分に出来るのだろうか−−−− 過去から現在までの記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。
フッと気が付くと辺りは薄暗くなっていた。知らないうちに眠ってしまったようだ。しかしそのお陰で大分気持ちも落ち着き、いつまでもこんな風にしていても何も始まらないと思い直した。だがこれからどうすればいいのか全くわからない。カシミールの顔を見ると思うと腹が立つが、ひとまず宮殿に戻って今後のことを考えようと重い気持ちを奮い立たせるように帰途についた。
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